底なし宝箱

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3人目の目撃者 001

--ニューコム  アレナ基地--


東からの温かい風が基地を通り抜ける
この地域独特の気候現象といってもあながち間違いではない
USEAの東に位置するベール海は暖かい海流が絡み合い上空の風を温めながら押し寄せる
一年を通して温暖な地域なため冬の観光地としても栄えていた
そして地域柄雲が流れて来ない上空には凍るように透き通っている青い空が広がっている
宇宙へと続く果てしない空
戦争など思わせない平和すぎる光景
だがスクランブルを示す途切れ途切れの警報は容赦なく基地内を駆け抜けた

二人の整備員が食べかけの昼食を床に落とし、自分の担当する機体に向かって走った
2機を最短時間で離陸可能状態にまで仕上げ、SCとして迎撃任務に送り出さなければならない
すぐにパイロットも駆けつける
時間勝負のスクランブル
SCが成功を収めるには時間短縮から始まるのだ
床のポケットを開きヘッドセットを取りだすと、同じポケットのパネルに暗証番号を叩きこんだ
ギアを包む様に凹んでいたパネルが平面に戻る
ギアサスペンションのチェックは必要ない
即座にポットに収まったミサイルの安全ピンを引き抜く
同じくしてパイロットが格納庫に飛び込んできた

自分の愛機まで全力疾走、シートへ身を任せるとハッチを閉じた
白いプラスチックカードに似た起動パケットを差し込み、全フライトシステムを立ち上げる
外部カメラが捉えた映像が自分の周りを包み込む
「どうだ、様子は?」
簡素なキーボードを叩きシステム診断プログラムを起動
順にシステムクリアの表示が並んでいく
同時進行でパートナー機とのリンクシステム確立―――クリア
正面には開いていく格納庫隔壁と走り回る機専属の整備員
誘導員が赤く細長い誘導パネルで肩を叩いていた
『いつもどおり』
威勢のいい機専属の若い女性整備員が最後の安全ピンを引き抜きながら答える
何も苦労してなさそうな明るい声がインカムに流れた
『ミサイルクリア、ギアシステムクリア、エンジンシステムクリア』
マスターアームスイッチを押す
黒いモニターに映し出された青い機のモデル、垂直尾翼基部あたりにミサイルのイラストが映し出される
同時に右翼基部から白線が伸び下に-GUN・OK-の白い文字
正常な反応
異常無し
「火器管制システム、クリア」
マスターアーム―――オフ
『了解、退避します』
彼女が近くの赤いポールを蹴り倒すと固定アームと整備用可動アームが一斉に離れていく
周りに誰も居ない事を確かめ最後に彼女が離れた
機後部の退避エリアに入ると彼女からの通信
『退避完了確認』
「了解、スタートワン」
エンジンを始動させギアブレーキ解除
マスターアームをオフ、サングラスをはずし特殊なバイザーを下ろす
静かだった吸引口のファンが回りだした
エンジンに大量の空気を送り込む
ノズルから赤紫の科学燃料独特の炎が噴き出す
室内に激しい爆音と爆風が入り混じりながら吹き荒れる
まるで近くで爆発が起きたかのような唯一つの音が辺りを支配する
『確認しました』
「了解、スタートツー」
もう片方のファンが回りだす
チカチカとした小さな稲妻がノズル内で起きると微かな音が大きくなり爆風と爆音が格納庫の壁で反射し轟き渡った
『確認、エンジンクリア』
パネルに映し出されているモデルのエンジン部が左右に分かれて赤く点滅している
2つの波長がそろうとパッと青色に変わり点滅がとまった
機体がバーナーの力でゆっくりと前進を始める
ゆっくりと太陽光の下に姿を現した黒い流曲線形態のR-101<Delphinus-1>
尾翼の赤いニューコムのペイントだけが唯一機の中で色が違う所だ
表面の装甲パネルを状態変化させ空気抵抗の大きさで機体を操るシステム<HYUDAMU>を実戦配備したニューコム第3世代コフィン
ミサイル4本に機銃だけと少ない装備だが機動性はゼネラル製コフィンを圧倒的に凌駕し火力で勝る敵機に引けを取らない
通常の青いカラーリングと異なる彼の専用機には未だ他機には配属されていないFOX-Ⅸエンジンが試験的に導入されている
HYUDAMU感応値を最大に設定し機動性重視の彼専用R-101
それでいて小型スパコン3台の導入、情報戦にも対応可能に仕上げてある彼にしか操れない戦闘機であり彼だけの戦闘機
俗にコフィンとは神経回路を伝わる微かな電気から読み取った情報を元に機を操る
簡単に言い表すと思っただけで機が操縦できるものをコフィンと表す
しかし彼の場合は戦闘機と呼んだほうが正しい
彼にしか操れない理由がそこにある
彼の機体、コクピット内はスロットル及び操縦桿がアナログ式に変更されている
右手には操縦桿、左手にはスロットルが昔の戦闘機のように

スロットルを微かにクンと下げると左パネルを踏み込み機首を左に向けた
誘導員が慣れた動作で滑走路を指し示す
指示通りに滑走路に進入、ギアブレーキをかける
前方をパートナー機がアフターバーナーで飛び立っていくところだ
バーナーの炎と滑走路の熱が背景を揺らしている
周りの草原や周りの囲む朱色の山岳
それらが存在を否定されているかのように揺らめいていた
「EXAMより管制室。離陸許可を要請する」
『管制室よりEXAM。離陸許可、指示は離陸後送る』
「了解」
ギアブレーキを解除
全システムに異常は認められず
離陸可能
所属識別信号オン
スロットルを押し込むとエンジンが再燃焼
アフターバーナーに突入し内部のノズルがグワリと開く
G緩和装置でも抑え切れない衝撃が彼をシートへ押し付けた
が彼は何の不思議もなさそうに地平線を見やり空に視線を移す
飛行には最適で隠密作戦行動には最悪の真っ青な空
友軍の早期警戒機が高高度を白い線を引きながら基地上空を通過していく
「テイクオフ」
機体がフワリと浮くのを感じた
すぐに加速に不必要なギアを収容しモニターに目を配る
全システムオールグリーン
速度510より上昇中
高度600より上昇中
視界が青一色に染まっていた
『管制室よりEXAM。相方は新人だ、しっかりカバーしてやれ』

「無茶を言う」
『それだけ信頼にされてるのさ。FEENAとアンノウンとの距離が近い、急げ』
「了解」
高度5700で水平飛行に移行
黒い機体は青い空へと消えて行った

--ベール海上空高度50000 RNN-746  DEPURUTO早期警戒機  --


「ウェンベルよりFEENA。アンノウンはヘッド34より接近中、警戒せよ」
『了解』
緑色に表示されたレーダーの見方機矢印がアンノウンを示す黄色い矢印に頭を向ける
同時にコンピューターが接触予想をはじき出し表示
00:02:32から始まったカウント
「デピュター101に感。ロック基地より機影接近中、所属識別信号解読中」
緊張の余り静まり返っていた機内に声が大きく響いた
外装は巨大な早期警戒機でも内装はコンピューターが著しく占め、搭乗員用スペースは無いに近い

使いやすいよう考慮はされているが間を通り抜けるのが一苦労するぐらい

窓もなく機内は薄暗い

同時に機底部に隠された巨大なパラメリスボードが足元で変な音を立てながら回っている

主翼部にフリスピーが刺さったような外装はニューコム最新鋭警戒機の印

がゼネラル主力のE767-AWACSと並べると不恰好といわざる得ない

それでも性能差についてはニューコムお得意の科学技術により範囲・精密さは郡を抜いている

性能をカバーするために装甲が薄いのが欠点だが

「所属識別信号解読終了。ニューコム・アレナ基地所属、RK-101-TPR、EXAM。ブロック3-5-6にオンステージ」

指でモニターをはじくと各管制卓に情報が表示される



『EXAMよりウェンベル、応答せよ』

先輩がコンソールに向きなおる

同時にデータリンクシステムを立ち上げ、3段階のリンクロックとハッキング防止コードをオン

機のデータをアレナ基地管制室から受け取ると周波数を合わせる

通信がつながった

「こちらウェンベル」

『現在の状況を』

「FEENA機接触予定00:01:16後、貴機接触予定00:03:25後。テルス30556に空中母艦を確認、増援の可能性大」

『了解』

彼からの応答と同時にFEENA機の色が変わった

余り軍組織の中でよい印象の無い赤色

『FEENAよりウェンベル!コード・レッド!』

「了解。反撃を許可する」

「コード・レッドが発令されました、付近を航行中の全非軍属機は高度2500に降下せよ」

先輩達が慣れた手つきで付近の民間機を低空へと誘導、同時に交戦状況を基地へと送る

「聞いたか?EXAM」

『あぁ、しっかり聞かせてもらった・・・・』



--ベール海上空  R-101Delphinus-1  FEENA機--





「!!!!!!」

ロックオン警報が鳴り響いた

すぐさまスパイラルダイブ・旋回降下

頭上に海が広がる

が警報が止むことはなかった

レーダー映っているのは後方の1機

残りの2機は旋回しながら上空で待機しているようだ

機首を上げエアブレーキ、<HYUDAMU>マイナス最大――急減速

降下で付いた勢いを殺せず、あっさりとテールノズルを披露した

ノズルが広がりバーナーの炎が噴出

アフターバーナーに点火し空域の離脱を図かる

同時に緩ロールを繰り返すランダム回避

近接状態で唯一使える機銃をかわす為の戦闘機動

火器に威力の無いニューコム製コフィンが数発当たった所でゼネラルの厚い装甲は撃ち抜けない

敵の装甲が簡単に破れるとは思わないが少なからずダメージを与えられる

すかさず機銃にセットし熱電磁コーティングを施した紫の弾丸を放つ

敵機に数発命中、黒煙が上がった

攻撃の手を緩めず発砲、残弾数が急激に減っていく

それでも敵機は黒煙を出すだけで空を舞い続けている

急所にあたらならければコフィンは落ちない

その差が激しいのもコフィン独特だろう

『上昇しろ!残りの一機は油断しているぞ』

突然の割り込み通信、言われた通りに視線をあげる

上空で加速もせず唯下の様子を眺めている様に旋回飛行を続けている

一機しかいない

ヘッドオンした時は3機いた筈だったが

突然機が揺れた

後方からの衝撃で異常な揚力が発生、機首が上を向く

解除していないガンのレティクルが右翼と重なった

慌ててトリガーを絞る

紫色の線が伸び右翼を貫いた

敵機は右翼システムが崩壊、右ロールへと誘い込まれる

襲撃が再び機体を襲った

破片がモニターを横切り機のバランスが崩れる

追っていた機体が居ない

そして、次にモニターを横切ったのは真っ黒な友軍機

急激な捻りこみを見せ被弾した敵機に迫る

「敵は手負いです、それ以上は!」

が応答よりも先に飛び出したのは汎用ミサイルだった

真っ白な白線を空に引きながら敵機に飛び込むコースに乗る

バーナーが切れると後は滑空で空を舞い、コンピューターが予想したポイント目掛けてミサイルは飛んでいく

次は唯の爆発だ

真っ赤な爆炎と黒煙の中から頑丈な骨組みだけが燃えながら地上に吸い込まれていく

パラシュートは見当たらない

あの機と一緒に

『EXAMよりウェンベル。アンノウン全機撃墜、帰還する』

EXAMの他人の死に動じる様子もない冷ややかな報告が何故か耳に残った



--アレナ基地  第2格納庫--





『ワイヤー確認、後退させる』

同時にワイヤーが巻かれ機が後退する

スクランブル機独特の格納庫の性能上後退は仕方が無い

機首を滑走路に向けた状態で待機させるため格納時にはワイヤーを用いたバックが必要とする

定位置まで後退しギアをマークにあわせる

彼女が暗証番号を打ち込みパネルが沈み込んだ

すぐに離着陸時におけるギアのダメージチェックが入った

暇な整備員達で残った一発のミサイルが取り外され同時に機銃の弾も抜かれていく

さらに電子機器と各油圧系統にも検査が入る

出撃時の整備員は担当の一人だが帰還時は暇な整備員総出で行う

『ハッチ、空けますよ』

バイザーを上げヘルメットを取ると特殊なサングラスで瞳を隠した

ハッチの隙間から太陽光がコクピットに差し込む

開ききったハッチの上から彼女が手を伸ばす、しっかりと掴み腹筋に力を入れる

上体を起こし立ち上がると足を掛けコクピットから出る

そこには生きて帰ってきたことを喜ぶ整備員達がいた

笑顔で敬礼し再び自分の仕事へと戻っていく

「お帰りなさい、コウさん」

「ん、ただいま」

160程度の身長と小柄な彼女が入れ違いにコクピットに入る

なれた手つきでドライブから取り出したWEDディスクを受け取りポケットに収める

その後、彼女はコクピット内の軽いチェックに移った

見ていても専門的なことはわからない

他のパイロットと違って着替える必要もない

対Gジャケットを脱ぎ出口に向かう

後の予定は特に無い

スクランブルが回ってくるのは早くても明後日になるだろう

防音をかねた透明の扉を押し開ける

空調の整った広めの廊下に出ると胸元を軽く広げた

戦闘機もコフィンも内部の空調は整っている、が音速の戦闘では嫌な汗が出てくる

どんなベテランのパイロットでも死を意識するのは当然であり逃げることは出来ない

彼女を見つけたのは次の行動だった

見ず知らずの女性が凄い顔で睨みつけている

こちらが気づくと彼女は表情を緩めるず歩いてきた

次の瞬間彼女の両腕は自分の襟元をつかむ

辺りに目を配るが人影は無い

やる場所のなくなった視線を手放す様子の無い彼女に向けた

「なにか?」

「どうして撃ったんです!あの機を!」

どうしてと言われても正確な答えは浮かばない

戦闘における自分の考えは夢のように把握しきれる物ではない

大抵のパイロットは自分の命を守るために躍起になる

冷静であるのは慣れであり油断である

「あの機は既に戦闘が出来る様子ではなかったのですよ!」

ふと昔を思い出した

同じ事を何年か前に言われたことがある

あの時も作戦終了間際、先輩隊員が身を張って自分の攻撃を止めようとしたのだ

少しの間揉めあっているうちに敵機は見当たらなくなり自分達も基地へ帰還した

その次の日からだ

自分が他人の感情にこんなにも冷静でいられるのは

相手の死を感じないように努力したのもあの時からだ

敵に情けをかけないと誓った日

遠くで彼女担当の整備員が騒ぎを嗅ぎ付け慌てて扉から出てくる

すぐに彼女に手を離すよう説得を始めた

「君は甘すぎだ、自分の感情に素直すぎる。それではパイロットには向いていない」

「よく言えますね、そんな事が!あのパイロットだって生きた人間なんですよ」

「自分は他人の命も救えるほど強くないと思っている」

なんて奴だといったような顔で睨みつけたまま手を離す

相変わらず険しい剣幕のままだ

すると彼女は踵を返し格納庫に近いチーフルームへと向かって歩き出した

その様子を周りの整備員達と眺める

「止めなくてもいいのですか?おそらく・・」

「あぁ、チーフに言い付けに行くのだろ」

「わかっていたら何故?」

「彼は俺を知っている」

軽くすまなかったと整備員達に声をかけその場を後にした



--スタッフエリア  コウの自室--





歩きなれた通路を歩く

既に日は落ち窓から入ってくる光は滑走路を照らす巨大な照明塔からの光だけだ

室内の方が明るい

静かで物音がほとんど聞こえないエリア

隊員達の宿舎があるエリアはどの基地でもスタッフエリアと呼ばれ完全防音が施してあるのだ

外では対潜哨戒機がまた1機飛び出していく

ベール海、USEA大陸より東部に位置する最大の海域

ニューコムの制海域でありメガフロートがランダムに移動している海域

アレナ基地はポートエドワーズ近くに構えているゼネラル最大の基地-GDコンスタム基地-を意識して作られた最終防衛ラインの主力である

メガフロート直接攻撃阻止やベール海の航空支援等も受け持つ

またゼネラル第4機動艦隊の制海域侵入を防ぐための対地対艦攻撃機R-201<Asterozoa>計20数機の配備

艦隊特別攻撃隊が編成され絶対的な指導権を握りつつも数多くの対地攻撃システムも配備されている

基地の対空・管制・索敵システムなどは最新鋭を揃え厳重な警戒網を張ると同時に東エリアの総合管制室を兼ねた一大防衛線

東エリアへの侵入を許すこともなくゼネラルから絶対空域とよばれ恐れられている

そんな基地のパイロット達は厳しい訓練を課せられていく

もちろん諦めたり別の基地への移動を願ったりする隊員も多い

が残った隊員はそれなりの実力を得て出撃していくのだ

コウの経緯は少し違うが基地内でトップクラスとして認められている

作戦に従事する姿に勲章受賞候補者として名前があがる事も少なくはなかった

ふとポケットの記章を取り出す

豪華な27NEU最高戦略戦闘記章だ

それを見ていると彼女の言葉が頭によみがえる

何故撃ったのかと言う彼女の殺人を否定したい言葉が響いてきた

記章を強く握ると再びポケットに滑り込ませる

気づかぬうちに既に自室の前で立ち止まっていたようだ

カードキーを滑らせ赤のランプが緑に変わると扉が開く

広々とした自室に足を踏み入れる

「お帰り、コウ」

「ただいま、エリカ」

軽く返事を返し白い隊員服を脱ぐと黒いシャツだけでソファーに腰を下ろす

それにしても今日一日だけで一年間分の体力を使ったような感じだ

サングラスをはずし机の上に置く

誰もいないところで瞳を隠す必要もなければ太陽光も入ってこない

「サングラスしないの?」

キッチンの方から声がする

女性の声

彼女の姿は見えないがおそらく彼女だろう

この部屋で一緒に暮らしている彼女

とことこと前まで歩いてくる

軽く2、3回頭をなでると彼女は嬉しそうにコウの隣に座り込んだ

しばらく二人だけの時間が流れる

しずかで何もせず唯彼女の頭を撫でるだけ

「エリカ」

「何?」

彼女は嬉しそうに返事をした

まるで好きな人と一緒に居られる様な幸せを感じているかのように

「少し・・・出かけようか」

「・・・・うん・・・」

サングラスをかけると彼女はすべての足で出入り口に向かう

その様子を眺めながら軽い防寒着と拳銃のサックを取り付けた

彼女を見ていると悲しくなるときがある

すべてが自分の所為だと思うことが痛い

彼女が犬にならなくてはいけない理由は自分が作った

敵を逃がしてしまったあの日から自分は生まれかわったと思っている

敵に情けをかけない

彼女のような悲しみを生まないために

「コウ、早く行こうよ!」

促されるままに出入り口に足を進めた



--チーフルーム--





「どうして!上申できないんですか!」

真っ赤な顔をしてフィーナが机を叩く

まったく、この机だってそんなに安いものじゃないのに

それにしてもコウもコウだ

いつも新人と組むと苦情が嵐のように来る

が自分はそれを責めることが出来ない

彼を苦しめている気持ちもよくわかる

その一端を私が引いてしまったのだ

彼が敵機に情けをかけない事を基地内で一番良く知っているだけに軽率なことは言えない

「君は・・自分の行動にミスはなかったと思うかい?」

「ええ、勿論です!」

怒り狂ったようにぶっきらぼうに返答された

最近のニューコム隊員は精神面での強化がされていないから感情的なパイロットが多い

「ならば、君はパイロットに向いていない。いや守る事にだ」

訳が分からなそうに首をかしげた

コイツも皆と同じような感情型だと言うことだ

「どういう意味ですか、それ!」

「そのままの意味だよ」

そう言うと服の胸元を引っ張り彼女に自分の肩を見せた

当然のように昔の傷跡を見て凍りつく

嫌な傷跡だ

痛みよりも彼の思いが伝わる

「私も同じことを考えていたよ、彼とコンビを組んでいたときね」

驚いたように口を噤む

何か言いたそうだが言葉が出てこないといった感じだ

「4年前だ、彼とアンノウンのためスクランブルに出て1機を攻撃、撃墜せず見逃して帰投した」

まるで昔の恥をさらしている感じがする

思い出すのも嫌な思い出だ

彼女は何か思いを秘めたまま話を聞いている

「その次の日、彼が私に向かって発砲した「俺はお前を許さない」ってな」

「・・・・・」

それだけ聞くと彼女は部屋を出て行った

気持ちの整理がつかなさそうに不安げな表情で



--正面入り口付近  芝生エリア--





いつものコウと違って俯いたまま空を見上げようともしない

静かに何かを考えているように

大人しく彼の横に座り彼の顔を覗き込む

目を閉じ寝ているようにも見えるが間違いなく起きている

目を閉じ考え事をするのが彼の得意分野だ

深く考え事をするときは何時も同じことをする

私が寄り掛かっても気づくことはない

彼の生きている証である体温が暖かい

金属で出来た私の体とは違う

生きたままで、あの時のままの彼がいる

生きていなくてもいい

彼の側に居られるのなら例え機械になろうと幸せだ

「どうしたんだ?エリカ」

彼は俯いたまま目を開いていた

まっすぐにコウの目が自分の機械の目を向いている

「ふふっ、久しぶりね、コウが考え事をするの」

「久しぶりに君の事を思い出したからね」

疲れたかのように仰向けに寝転がり空を見上げた

同じように横に寝そべる

彼は唯何も言わず空を見上げた

自分の仕事場であり命をなくしやすい危険な場所

帰還した早期警戒機が識別灯を光らせ高度を下げつつギアを出す

ゆっくりと高度を下げ機首をあげたまま機体の重さで後部ギアを接地させキュンという音が流れた

白煙が上がり暫くのタクシーの後前部ギアも滑走路につける

逆噴射で速度を下げながら滑走路を走りぬけ視界から消えた

「君は・・・昔の事覚えている?」

コウが顔を向けた

サングラスをはずし、顔を覗き込んでくる

瞳の色を隠さずにいるコウがそこにいた

付き合うときから覚悟していた事だが今となっては綺麗な色に見える

ウサギのように真っ赤な瞳が両目に輝いていた

見とれても可笑しくない様な綺麗に輝く瞳

「覚えているわ、付き合い始めた頃のことも、これまでのことも」

「そうか・・・」

「もう一人の私が死ぬところを見たときの事も・・・・ね」

「・・・」

彼は優しく頭を撫でてくれた

CAN電池さん
01.20.AM 更新