底なし宝箱

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2072A

 「?」

一直線で飛来する物体は幼い彼の興味を引くには十分だった。

正面は円状、四つの小さな翼がつき、物体の背後には蜃気楼の様な屈折が起きている。

もし近くの大人が物体の存在に気がつけば物体が危険な物であることは察知できたであろう。

だが残念な事に彼の周りには大人どころか人の気配が無い。

小さな彼には物が何かを理解はできない。ただ興味を引く存在。

彼の視線を振り切るように物体は上空を通過すると地面へと進路を変えた。

彼も振り返るが物体を再び見る事はかなわなかった。爆風と爆炎に遮られて。



 -ニューコム代表評議会



ニューコムの指導者が一同に顔を合わせニューコムの今後について議論する円卓会議場。

ゼネラルやUPEOへの対応が熱論されている中で一人の男は面倒そうに全く関係の無い資料を眺めている。

なにしろゼネラルとの戦闘も終盤を迎え、UPEOが抱えるSARFの勢力拡大に伴って各地で被害が大きくなりつつある。

故に彼は次期主力戦闘機R104の開発を評議会の間にでも進めなければならないのだ。

 「極論だ!本気で2組織を敵に回せば、奴らは喜んで手を組むだろう」

 「それには同意する。1on1なら勝負になるが、戦力が低下している今の状態で1on2には耐えることはできないだろう」

 「それもR103ができるまでの話だ。ゼネラルより早く第三世代戦闘機を投入できれば世界図を一変する事が出来る」

今は<ニューコムは独自路線で行くのか、別組織との連結を深めたほうが良いのか>を模索中である。

 『スズサ開発局長、一番に緊急のお電話です。』

同時に見ていた資料を隠すように<緊急事態>の赤い文字が点滅する。

慌てて接続を許可すると聞こえてきたのは妻の慌てた声だった。

 「どうした?」

 『ユウが爆発に巻き込まれて・・・・・今、緊急病院へ』

もはや評議会どころでは無い。一切の制止を振り切って彼は椅子から立ち上がった。



 -USEA中央病院



ダウンウォッシュが吹き荒れる中で大勢の医者と看護士が降下してくるヘリを待つ。丁度ストレッチャーも到着し残すは着陸のみとなった。

赤いラインの入った白い機体がギアダウンすると迷うことなくヘリポートへと着陸、軽く揺れるも静止しローターも回転速度を落とす。

後部ハッチが開きヘリ用のストレッチャーが降ろされ、病院のストレッチャーへ患者を動かすことなく担架をスライドさせて移送を完了する。

 「命には別状ないが両目が心配だ。眼科のリューリッヒに応援要請」

看護士が血の止まらない両目に吸血布を抑えると胸元のインカムで中央管理に応援を要請。

 『中央よりR。701手術室を使ってくれ』

指示通りに運ぶべく看護士の手によってストレッチャーが動き出した。

一人がアクセルを踏むと残りの人間は壁と接触しないように両サイドを守りながらエレベーターフロアまで併走する。

 「親も呼んでおけ。ちゃんと目が危ないって伝えておけよ」

エレベーターの扉が開いた。



エレベーターが開くと同時にニューコム開発局長と秘書、それに護衛の黒服二人が大股で病院内を歩いていく。

医師や看護士に気を使う様子も無く、一目散に指定された手術室の前へと到達する。

 「様子は?」

大きく開いたガラスを覗き込んでいた女性が夫の顔を見て安心するのと同時に再び子供へと視線が戻る。

 「命に別状は無いようですが・・・両目は駄目だろうって」

 「・・・・・」

彼の耳打ちで黒服の一人が今来た通路を戻りながら胸ポケットをゴソゴソとさぐる。

もう一人にも耳打ちすると同じように通路を戻りながらズボンのポケットに手を突っ込んで何かを探している。

 「目が見えなくなるんだな」

 「えぇ、数時間もすれば完全に使い物にならなくなると」

 「・・・・・そうか」

それだけ確認すると秘書に耳打ち、秘書は上司の意思を汲み取ると問答無用で手術室へと入って行った。

二人に見られないようにハンドバックから護衛用のハンドガンを取り出して。

室内から叫び声のする中で男は覚悟したように妻の顔を見つめた。

 「ユウの一生は俺が責任を取る。いいな」



 「到着したら急いで容態確認、安定していれば即刻作戦に移る。スズサ開発局長直々の要請だ。死んでもヘマするなよ」

 「「「「「「了解」」」」」」

 『着陸する。用意しろよ』

だが彼らが用意をする暇もなく四つの脚部が地に押し付けられ、サスペンションが機体の重さに唸りをあげる。

後部ハッチが開かれ小銃を下げたニューコム特務部隊隊員が白衣の彼らを出迎えた。

 「第二中隊です」

 「機内の一式を運び出してくれ。赤い箱は死んでも壊すな」

 「了解です。お前ら!」

指示と共に御揃いの制服で揃えた男たちが警護を兼ねて医療設備を運び出すと病院内へと搬入して行く。

エレベーターを全て使用し小さい物は階段でも運ぶ人海戦術、1機が空となり離陸すると二機目が着陸。

隊員の誘導で研究助手が病院内へと流れていく。白衣の波がエレベーターに収まると扉が閉まりパネルの階数が増えていく。

数秒後にはエレベータが七階で停止。彼が治療を受けている手術室と同じ階に。



 -一週間後



 「包帯取りますよ」

看護士が慎重に巻かれた包帯を取っていくのを両親と白衣の人間が静かに見守っていた。

痛がる様子も無く包帯は順調に取り除かれ全てが取り除かれたときに彼の新しい目が全員の前に披露された。

目の存在しなければならない場所に目玉は無く、鈍く輝く金属の端子受け入れ口がポッカリと口を開いている。

看護士が下がり研究員が特殊プラスチック製の大きな特殊ゴーグルを持って前に進み出た。

ゴーグルから伸びた端子を二つの彼の元目玉へ慎重に差し込んでいく。

 「っ」

 「少し我慢してくれ」

後は奥まで差し込むとガチャリと機械音を立ててゴーグルが固定された。同時にゴーグルから低く唸るような音が連続する。

 「大丈夫か?」

 「視神経との同調作業をしているんです。コレが終われば・・」

全員が見守る中で彼は両手を目の高さまで上げると呟いた。

 「・・・・見える」



 -ニューコム第二開発局



 「局長からの命令だ。今日から徹底的にコイツの改造を行う」

作業服の男が赤い機体を指差し、同じく作業服の男たちも赤いスラリとした機体を見上げる。

 「コイツには世界最初のEEシステムを搭載することが決定した。将来は局長の息子が搭乗するようだ」

綺麗な流線型を守ってはいるが五十年前の機体、整備員から言わせればガタが来ているのは一目瞭然。

それを完全に復旧し、基礎ユニットを残したまま電装系などのシステムを最新物に入れ替える。

同時にEEシステムを搭載し機体に新たな魂を叩きこむ。

 「失敗は許されない。心して掛かれ」

 「「「「「「うぃーす」」」」」」

本格的に照明が輝き赤い機体にスポットが当てられる。

そこにはRナンバーの基礎となった半世紀前の戦闘機が静かに翼を休めていた。

FALKENの記号と共に。



 ―――そして10年後―――



 『さぁ、AIR-X-2072も終盤戦。準決勝にてオーシア連邦0002飛行競技隊対未所属最強を歌われるエアUSEAとの一戦』

 「実況は別回線に回せないのか?うるさくて」

 「多少の事は我慢してください。EEシステム良好」

異常の無しを確認しコックピットの男は電子視覚化ゴーグルを外し、コード付きの特殊な端末を躊躇する事無く自分の端末へ差し込んだ。

 『F16で揃えた0002に対してエアUSEAには二機のF2に混じってR201がエントリー。どういうことでしょうか?』

 『あえてR201を参加させると言うことを見れば何かしらの作戦があると考えたほうが妥当ですね』

 『それは機動性以外でと言うことですか?』

 『R201の安定性や積載量。今回の鍵となる機体かもしれませんね』

 「全チェック異常無し。総員退避してください」

急いで作業員が退避し両手に赤いプレートを持った誘導員が頭上で×を作った。

作業員の退避を確認してから誘導員が右手だけを上げ左手を下ろす。

男はシステム上でエンジン点火を指示、50年前の物を整備したものだが現代の物にも引けを取らないパワー。

50年前ならば最強の戦闘機として友軍の絶対的信頼を得られただろう。

 「左エンジン点火確認、正常」

続いて誘導員が左手を上げ右手を下ろす。同じ作業を繰り返し右エンジンも目覚めさせた。

 「右エンジン点火確認、正常」

こちらの声は誘導員のインカムに届いている、エンジン点火を音と視覚と報告で確認すると両手を上げた。

ゆっくりと招くように下がると赤い機体も前に出てくる。そのまま格納庫の外へと誘導して行く。

 『審判機が格納庫から姿を見せました。審判機エアバットが滑走路へと進入して行きます』

 『コントロールよりエアバット、応答せよ』

 「エアバット、どうぞ」

 『オールフェイズ異常無し。すべては何時も通り』

 「了解。離陸する」

 「審判機が離陸を始めました。審判機は何時も通りスズサユウの操るエアバット。
 全世界四十二の放送局を結んで生放送でお送りしておりますAIR-X-2072。
 実況はカータ、解説はマーヴィズでお送りしますオーシア連邦0002飛行競技隊対エアUSEAの準決勝。
 まもなく試合開始です。」

CAN電池さん
01.20.AM 更新