底なし宝箱

[top]   [story]   [short story]   [present]   [diary]   [offline]   [links]   [bbs]

| [トップページ] | [濱霧 緑炎さんトップ] |

Mission 10

――ファーバンティ 第2都市高速道 11月30日 午前5時30分――


夜、正確には明け方に近い街を、一台の車が走っていた
運転席には男が座っていて、速度計などが表示されているモニターその物がエレクトロスフィアの端末になっているようで、その一角からはニュースが流れていた

『UPEOのアーノルド代表が提唱した3企業首脳陣のロスカナス会談は、来月末にも実施される見通しで・・・・・・ッ』

女性のアナウンサーの声が唐突に途切れた、男は少しの間チャンネルを変えたりしていたが、モニターには砂嵐しか表示されなかった
「なんだ・・・?」
男がそう呟くと同時に、速度計やテレビを写していたモニター全てが砂嵐に覆われて、車は手綱が切れた馬のように走り初めて、100メートルも離れていないガードレールに衝突した
男がどうにかドアをあけて外に出ると、何かが爆発する音が響いた
それも、さほど離れていない場所で
同じように、近くにそびえ立っていたビルの一角で爆発が起こったのが男の位置からも見えた
「なんなんだ・・・・・・・」
男のつぶやきをかき消すかのように、再び爆発が起こった

――UPEO スコフィールド空軍基地 11月30日 午前5時45分――


真夜中、微かな霧の中に非常警報のサイレンが鳴り響いた
間髪入れずに誘導員と整備員が自分の持ち場に駆け寄って、待機していたパイロット達が愛機に駆け寄っていった
自分の部屋で寝ていたクリスも、突然の警報にたたき起こされていた
ほとんど反射的にパイロットスーツを着込んでいると、ネットフォンの着信音が部屋に響いた

『出撃命令だ、SARFのメンバーはすぐに第一格納庫に集合しろ』

画面に現れたのはエリックだった

『今から10分ぐらい前にファーバンティからの連絡が全部途絶えた、しかも、そこに3企業の部隊がファーバンティに向かってるのを偵察機が発見した』

エリックは一度言葉を切った

『―――ケインとクレッグはもういないが、頑張ってくれよ』
(そうだ・・・あの2人はもういないんだったよな)

クリスは心の中で呟いた

『――じゃ、後は上空でな』

ネットフォンはそこで終わって、ホロディスプレイに元の色が灯った

――このレベルが、UPEOの限界だな――

その言葉が、再び頭の中を過ぎった
クリスは無言で、部屋から出ていった

ファーバンティ――ユージア大陸の西端に位置する沿岸都市で、ポートエドワーズやUPEOの本部があるエキスポ・シティ、北のジオフロント(地底都市)"セント・アーク"と並ぶユージアの主要都市だ
この都市にはゼネラルとニューコム、そして新興勢力である清流公社の本社と、それぞれが有する防衛部隊の総司令部があり、さらには治安維持目的のUPEO部隊の駐留もなされ、現在の企業情勢から言うと、かなり特異な都市だった

その都市の沖合の海上を、4機の黒い戦闘機が編隊を組んで飛行していた
SARFの四文字が刻まれた黒い戦闘機、YF-23Uグレイゴーストだ

『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
『・・・・・・』

四人はいつも以上に真剣な顔つきで、前方を睨み付けていた
レーダーには全く反応が無く、ファーバンティとの連絡もとれないままだった

『・・・ザッ・・・・・・・・』

微かに無線から声が聞こえたような気がした、そのまま数秒間が経つと、オペレーターの声が四人のコフィンのコックピットに響いた

『―――こちらはUPEO所属の空中司令機"スタリオン"、現在接近中の四機編隊へ、貴部隊の所属と目的を伝えよ』
「こちらはUPEO特別航空部隊SARFだ、現在のそちらの状況を教えてくれ」

オペレーターの問いかけにエリックが答えた

『味方か、良かった・・・・』

オペレーターが胸をなで下ろすのが無線を通じてわかった

『今ファーバンティのエレクトロスフィアが全てダウンして全ての交通と通信が完全にマヒしている、おそらくはテロだろうが・・・今のところは未だなんとも言えない』

オペレーターがそう言い終わると同時に、視界にファーバンティの町並みが見えてきた

『オイ・・・・』
「嘘だろ・・・・・」

SARFのメンバーの先には、煙を噴いて炎上している高層ビル群と、至る所で車が横転している高速道路と、その上空で空中戦を繰り広げている三企業の戦闘機の姿があった

『ひどい・・・・・・』

クレアの呟きが、微かに聞こえた
それにクリスとマイクも無意識に頷く
『SARF全機!コンバットシステム起動、戦闘速度に加速、戦闘を止めさせるぞ!』

3人の呟きの直後、エリックの声がコフィンに響いた
3人はそれまでの暗い表情から一変して真剣な表情になると、それぞれのコフィンに付けられているコンバットシステムを作動させた
4機はキッチリと編隊を組んで、空中戦を繰り広げている部隊の真ん中に機首を向けた
アフターバーナー全開で編隊に向かって突き進んで、SARFのメンバーはヘビーマシンガンを戦っている編隊に向かって発射した
数秒後に、その編隊の真ん中をSARFの機体がかすめた
突然の攻撃に企業の部隊は戦闘を止めたようだった
『現在この空域で戦闘中の全機に次ぐ、こちらはUPEO特別航空部隊SARFだ、直ちに戦闘行為を中止し、我々の誘導に従い着陸せよ、命令に従わない場合は撃墜する』

エリックのその声と同時に、レーダーに後続のUPEOの戦闘機隊の姿が映った
戦闘を続けていた三企業の戦闘機隊は、それぞれの部隊ごとに別れてUPEO機の"護衛"付きで空港の方に向かって飛んでいった

「ふぅ・・・・・・」

クリスは軽く息を吐くと、空港の方に向かって飛んでいる戦闘機の群を見つめた

『―――管制塔よりSARFへ、空港への着陸を許可します』

管制塔からの通信でハッとなったクリスは、操縦に集中するコトにした

「疲れた・・・・・・・・・・・・・・・・・」

それが、クリスが部屋に入って発した最初の言葉だった
あの後、空港に着陸したは良かった物の、情報の要となっているエレクトロスフィアが全てダウンしている為に、フライトレポートの提出や本部への状況報告が 思った以上に進まずに、結局朝の10時をすぎてからようやく全ての作業を終えて、こうして割り当てられた自分の部屋に戻って来れたのだった
普段ならこうした待機の時は本を読んだりゲームをしたりするクリスだったが、緊急発進してきたため私物は全て基地の自室に置きっぱなしににしてきたままだった

「・・・・・・宿題持ってくれば良かったな・・・」

それは、中間テストから2週間ほど前の話だった

――同時刻 ファーバンティ 清流公社 会議室――

清流公社本社ビル、3本のタワーで編成されるその施設の一角、ビルのほぼ真ん中に、その部屋はあった
壁一面が巨大なガラス張りで、そこからはファーバンティの町並みとゼネラルとニューコムの本社ビル、そしてはるか上空でパトロールを続けている戦闘機隊と、マスコムのヘリコプターが一望できた

「話が違う、UPEOがこんなに早く介入するなんて聞いていなかったぞ」

そう言ったのは、不作法に会議室の机に腰掛けていた男だ

「奴らはもうゼネラルの手駒じゃない、それにこのぐらいは予想の中だ―――UPEOはキミの時とは大きく変化したんだよ」

窓をバックに、男と向き合ってイスに腰掛けていた男は、最後の言葉を思い出したように付け足した

「なるほど、こりゃジュニア・ハイの歴史の授業をもう一回受けないとダメだな」

机の男は、ぶっきらぼうにそう言った

「―――さっきの会議の時に出ていた輩の内、何人がこの計画を知っている?」
「私とキミ、後は防衛部隊のトップが何人と、スフィア部門の人間が何人か知っている」
「そうか・・・・」

机の男は、しばらく考え込むような仕草をした

「まさかその中に、サイモンと言う男はいないだろうな」
「何を言っているんだ、彼は死んだよ、10年近くも前に、キミの手でね」
「そうだが・・・・・なんか妙な違和感があってな」
「また、計画の遂行を妨げる者がいるとでも?」
「そうは言わないが・・・なんというか・・・・」
「・・・・変わったな、ディジョン」

男は、ぽつりとそう言った
机の男、元・ゼネラル航空戦隊パイロット、アビサル・ディジョンは、今までとは異なる目つきで男を軽く睨んだ

「失礼」

男は社交辞令のように言い放った

「――――キミには、今日の夜、もう一度飛んでもらおう、この作戦が失敗した以上、次の作戦は成功させなくてはならない」
「わかっている」

ディジョンはそう言って、窓の外、パトロールしている戦闘機の機影を見つめた

濱霧 緑炎さん
01.20.AM 更新