底なし宝箱

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Mission 14

ここ・・・・どこだろう・・・・・

少年は、ぼーっとする頭でそう考えた
そこは、少年が見慣れたコフィンの中でもなく、基地の自分の部屋や実験室でもなかった
その部屋に窓はなく、壁も、床も、天井も、ベッドも、頭上のライトの光も、全てが真っ白な部屋で、その部屋で白くないのは、少年の茶髪と肌、そして紺碧の瞳ぐらいだった
その部屋に、2人の白衣を着た人物が入って来た
一人は、黒い髪の毛をオールバックにまとめた男性で、もう一人は、金髪碧眼の美しい女性だった

「容態はどうなんです?」

女性の方が口を開いた

「良くはありません、昨日から反射テストを行ってはいますが、今のところ反応は全くありません」
「そう・・・・・××××の数値は?」
「昨日と代わりありません・・・・やはり××が原因では?」
2人は少しの間、少年には難しい言葉を使って会話していたが、やがて女性の方が「いいわ」と思いきったように言った

「明日、もう一度反射テストを行って、それで結果が出なかった場合には、非常計画を発動させます」
「フォッケウルフ博士!」

男の方が、心底驚いて、そう言い放った

「万が一、上層部にこの事が発覚した時には・・・・その時は私が全ての責任を負います」

女性はそう言うと、ベッドに横たわっている少年に視線を移した

「今、この計画には・・・・彼が、クリスが必要なんです」

その女性、Project TEYURU主任、シルヴィア=B・フォッケウルフは、そう独白した

――ニューコム・ペトロル実験航空基地 12月15日 午前7時00分――

轟音と共に、ニューコムの大型輸送機がゆっくりと着陸した
着陸した機体に大きなタラップが横付けされて、中からニューコムの制服を着た人や、休暇明けと思える私服の人が次々と降りてきた
その最後尾に、他の人々とは明らかに異なる服を着た少年がいた
グレーをベースカラーにした服で、その襟には航空准尉の階級章と、ハトをモチーフにしたマークが有った

「久しぶりだな・・・・」

UPEO航空部隊の制服を着たクリスは、そう言って彼の"実家"を見渡した

「久しぶりね、クリス」

唐突に、タラップの下から声を掛けられた
声を掛けたのは、白衣を着た金髪碧眼の女性、Project TEYURU主任、シルヴィア=B・フォッケウルフだった

「博士、お久しぶりです」

クリスはそういって、さっと敬礼した

「ここではそう言うのは無しでいいわ、それより・・」

博士はそう言って、クリスに付いてくるように促した

「向こうではうまくやってるの?」

博士が再びその話題を口にしたのは、研究室に入ってからしばらく経ってからだった

「まぁ、それなりにやってますよ」

そう言ったクリスは、ヘルメットをもう一回り大きくしたようなモノを被っていて、手には何やらコードが接続されている手袋をはめていていた
それらのコードは全てが、デスクの傍らに置かれている円柱型の大型コンピューターに繋げられていた

「それなりね・・・・にしては、ずいぶん活躍しているみたいね、ニュースでさんざん騒いでるわよ、天才少年だとか何とか・・・・・知名度では、雪花と比べてもいい勝負ね」
「でも・・・はっきり言って取材とかうざいんですよね」

そんな会話をしながらも、博士の手は軽快にキーボードを叩いていて、その目も、ホロ・ディスプレイとキーボードの間を往復していて、クリスの方は全く見ていなかった

「所で・・・・」

クリスが口を開いた

「コレ・・・なんの機械なんですか?」
「企業機密」

博士は即答した

検査から解放されて、クリスは基地内の休憩コーナーで一人くつろいでいた
どちらかと言えば小さめの場所だったが、壁一面にはめ込まれた大きな窓からは、ペトロル基地の滑走路と、そこから飛び立つ戦闘機の姿が一望できる、いわば穴場だった
天井のスピーカーからは、静かな曲が音量を絞って流されていて、その部屋で唯一のBGMとなっていた
やがてクリスは立ち上がると、窓際まで近寄って、そこから外の滑走路を見た

6年前、クリスはいつものようにこの場所でこの風景を眺めた後、訓練に行った
いつもとなにも違わないはずだった
だが、クリスの乗ったデルフィナス#3は墜落した
その後のコトを、クリスは良く覚えていない
コフィンから誰かの手で助け出され、そのまま病室のような所に入っていったのは覚えているが、それより後のコトはほとんど覚えていなかった

失われた過去

なんとなくそのことを考えながら、クリスは窓の前に立ちつくしていた

「コンピューター、Project TEYURU・レポートを開いて」

博士のその声と同時に、デスクの上にホロ・ディスプレイが現れた

博士はイスの背もたれに掛けてあったヘッドホンを付けると、そのイスに腰掛けた



「マイクテスト」



自分の声が聞こえるのを確かめてから、博士は一気に喋り始めた



「先ほど、第一号被験者クリス・フォッケウルフの定期検診が終了、心身共に異常は見られず、この点については今のところ問題ないが、今後も用心すべき点である」



一度言葉を切った



「彼の撃墜スコアはデビューしてから既に80機を越え、一般にエースと呼ばれる者達と同等以上の成績を収めている――――これは第二号被験者、飛鳥井雪花にも劣らず勝らずの成績であり、今後とも研究の価値はありそうである」



再び言葉を切って、今度は小さく息を吐く



「尚、6年前の事故について、クリスは何らかの疑問を持っているようであるが、今のところ警戒するほどでもなさそうで・・・・・」



博士の声が止まった



「・・・・・コンピューター、今の一文を削除して、その後保存して終了」



ホロ・ディスプレイが消えた後も、博士は少しの間イスに腰掛けていたが、やがて立ち上がって、部屋から出ていった

圧縮空気の音と共にドアが閉まり、部屋に静寂が訪れた

濱霧 緑炎さん
01.20.AM 更新