底なし宝箱

[top]   [story]   [short story]   [present]   [diary]   [offline]   [links]   [bbs]

| [トップページ] | [濱霧 緑炎さんトップ] |

Mission 15

壁一面が巨大なガラス張りの部屋、その中央におかれた円形のテーブルに、一人の男が腰掛けていた
その男の前にはノートパソコンが置かれていて、ディスプレイにはSSSの制服を着た男が映し出されていた

「そうだ‥‥攻撃地点はディジョンの指示に従え、君たちは機体を動かせばいい」

かすかに、男が喋っているのが聞こえる

『了解しました‥では』

制服の男が敬礼すると同時に、ノートパソコンの電源が消えた
男がノートパソコンを畳むと同時に、今度は不作法にも向かい側の机に腰掛けた男が口を開いた

「やはりやるのか?」

机の上の人物――ディジョンが口を開いた

「ああ、今、この状況において彼女は邪魔者にすぎない」

「邪魔者か‥‥確かにな」

ディジョンはそう言って、自分のあごに手を伸ばした

「それに、あの場所で彼女を消せれば、この戦争はさらに長引く、そうすれば我々の計画も首尾よく進むだろう」
「‥‥」

ディジョンは黙っていた

「アーノルドを消す」

男の淡々とした言葉が、会議室に響いた

クリスは視線を移動させて、前方の白い機体、UPEO代表議員専用機を見上げた
流線型を主体としたその機体は、対照的に漆黒に染め上げられた機体に前後左右をエスコートされて、ロスカナスに向かって飛行していた
既に合計で4時間以上コフィンに腰掛けていることになる。ロスカナスまでまだ数時間あると思うと、急激に睡魔に襲われた

「‥‥オートパイロットにして寝てたらダメか‥?」
『やるなよ』

何気ない呟きに、エリックからの鋭いつっこみを受けたクリスは、再び睡魔との戦いに身を投じた
そんなとき、不意に警告音が鳴り響き、視界全体をレーダー画面が覆った
中心に味方を示す青い点が一つと、その回りに四つ
そして、右上の、かなり離れたところに敵を示す紅い点が、六つ灯っていた
再び警告音が鳴って、今度はその敵が攻撃用のレーダーを作動させていると表示された

『6機か‥‥‥マイク、クレア、オレと一緒に確認に行くぞ、クリスは残って直衛だ』

一瞬の沈黙の後、エリックはそう言った

『『了解』』

マイクとクレアの2人はさっと自分たちのポディションから離れて、エリックの後ろで編隊を組んだ

『クリス、後は任せたぞ』
「任せといて下さい」

クリスはそう言って、ディスプレイに向かって親指をつきだした
エリックはそれに同じ仕草で答えると、マイクとクレアの2機を引き連れて、さっと旋回していった

「‥‥‥おかしいわね」

UPEO代表議員ローザ・アーノルドは、そう呟いて書類から顔を上げた

「何か‥ありましたか?」

隣に腰掛けている女秘書が問いかけてくる

「護衛機がいなくなったみたいね‥‥‥どうかしたのかしら?」

そう言う代表の視線は、窓の外に向けられていた

「私、聞いてきます」

「いいわよ」と言う前に女秘書は席から立ち上がって、無線室の方に消えてしまっていた

「やれやれ‥これだから若い者は‥」

代表は手にしていた書類をテーブルの上に戻すと、置かれていたカップを手にして中身を一口すすって、冷め切ったコーヒーの味に顔をゆがめた

「閣下‥」

秘書がやや緊張した顔で言った

「所属不明の航空機を確認し、護衛機の内3機は確認のために離れたそうです」

代表の顔に、僅かに緊張の色が浮かび上がった

「‥‥ロスカナスまでは後どの位?」
「予定通りなら、現地時刻の午後1時ちょうどに到着する予定です」
「そう‥‥まだ大分あるのね」

そう言った代表の目線は秘書にではなく、その向こう側にある窓の外に向けられていた

何かイヤな予感はあった

うまく説明できないが、そんな感じがクリスの中にあった
HUDにはレーダー画面が拡大されたままの状態で開かれていて、クリスはその一点を凝視していた
その一点に、ふっと光点が現れた
全部で9つ、どれも敵を示す紅い点
その直後、アラートと共にHUDに警告文が表示される

「やっぱり来たか‥‥」

そう呟くと、クリスは無線を開いた

「現在接近中の編隊へ、こちらはUPEO代表議員特別機の護衛である、貴部隊の所属と目的をお教え願いたい」

教科書通りの言葉を言い終わらないうちに再びアラートが鳴り響いて、今度はミサイルの接近を報せてきた
咄嗟にボールマウスから手を離すと、一気に機体を加速させながら上昇を始めた
直後、機体のすぐ側をミサイルが白煙を残して通り過ぎていって、何発かが至近距離で爆発して、破片がクリスの機に降り注いだ

「くそっ‥‥本気かよ!」

毒づくと同時に、特別機への回線を開いた

「特別機へ、現在所属不明の敵部隊から攻撃を受けた、貴機は全速でこの空域から脱出せよ」

一瞬、特別機のパイロットが息を飲むのが聞こえた

『りょ‥了解』

特別機はそう言い残すと、翼端から飛行機雲を引きながら飛び去っていった
それを確かめると、エリック機の回線を開いた

「隊長、今所属不明の敵から攻撃を受けました、直ちに迎撃に移ります!」

答えを聞く間もなく、別の通信回線を開いた

「ロスカナス管制塔へ、こちらUPEO治安維持部隊SARF、現在所属不明の敵部隊から攻撃を受けている、直ちに緊急着陸の用意と増援を要請したい」
『ロスカナス了解、直ちに走路滑を開けて、そのエリアの担当機を向かわせる、おそらく10分ほどで到着するはずだ』
「10分‥‥」

それは、9対1のドックファイトを繰り広げて、なおかつ特別機を守り抜くには長すぎる時間だった

「了解」

クリスはそういい放つと、機首を敵の方に向けた

「やれるか‥いや、やるしかないよな」

そう言ったクリスの表情には、先ほどまでの眠たそうな印象はなく、ただ真っ直ぐと敵を見据える戦士の表情があった
レーダーに写されている八つの光点の内、先頭の4機にロックオンすると、長距離ミサイルを発射した
ミサイルは白煙を残して飛び去って、たちまちクリスの視界から消えて、レーダーの光点と重なると同時に、敵が3つ消えた

「後6機‥」

呟くと同時に、視界に敵が入ってきた
両端の2機づつが左右に散開して、中央の2機が真っ直ぐに突っ込んできた
瞬く間にクリスとその二機は猛スピードですれ違った
視点をすれ違った二機に固定したまま、一気に旋回して再び向き合うと、機銃で弾幕を張った
敵はそれをかわすと、上下に散開してきた
上の機は機銃を、下の機はミサイルを撃って追いつめようとしている
その攻撃を一気に減速して半ば強引にかわすと、ミサイルを上の機に発射した
着弾を確認する間もなく、もう片方にもミサイル発射して、そのまま全速で特別機の方に向かっていった
後方で何かが爆発する音が聞こえたが、それを無視して上昇を続ける

『護衛機!後ろに敵だ、何とかしてくれっ!!』

半ば悲鳴に近いその声を聞き流しながら、クリスは敵に襲いかかった
機銃の一撃で一機をたたき落とすと、そのまま特別機の後ろをすり抜けて、真っ逆様に降下していった
3機の敵がそれに続いて降下していく
雲を突き抜けて、やがて眼下にくっきりとした山脈が現れた、一歩間違えば墜落するような距離で機首を持ち上げると、そのまま雪を激しく舞わせながら超低空で峡谷をすり抜けていった、敵もクリスとほぼ同じ高さを飛んでいた

「やるしかないよな‥」

誰とも無く呟くと、素早くキーボードを叩き始めた、その間にも敵は攻撃を仕掛けてくる

「よし‥いけっ!」

その声と同時に、燃料タンクが切り離されて、翼端からも白い航空燃料がばらまかれた
直後、クリスの機体はコブラをして、そのまま機首を真後ろに向けた
その先には、先ほどばらまかれて気化している燃料とタンク、そして、そこに突っ込もうとしている敵の姿があった
短い銃撃音の後、タンクが炎に包まれて、それは瞬く間にばらまかれた燃料にも引火して、そこに突っ込んだ敵を巻き添えに爆発を起こした
一機は燃えさかる燃料タンクに衝突して爆発し、一機はそれを避けようとして山肌に激突して、最後の一機はどうにか爆発から逃れた直後、背後から迫っていたクリスに撃墜された

「やっぱ無理があったな‥」

やや自嘲気味に呟くと同時に、レーダーが更なる警報を発した
戦いは、まだ終わる気配を見せていなかった

『ロスカナカス管制塔よりニューコム編隊へ、緊急連絡』

その通信は、フィーの編隊がロスカナスの郊外にさしかかった頃に入った

『現在UPEOの代表議員専用機が所属不明の部隊からの攻撃を受けています、貴編隊及び監視のLMF機に支援を要請します』

女性オペレーターがそう言うと、HUDに詳しい情報が表示された
中心に青い点が二つと紅い点が六つ、遠くの方に青い点が三つと五つ
中心の方が特別機だと、オペレーターが告げた

「了解しました、直ちに向かいます」

フィーはそういうと、さっと自分の部下達に指示を与え始めた

「―――雪花、いくわよ」

最後にそう言った

「待ってました!」

そう言って、雪花はフィーの後に続いた、LMFの機体もそれに続く

「あれがフィーの一番弟子か?」

しばらくして、LMFのパイロットはそう呟くと紅いシュワルベを見上げた

『そうよ』

フィーの短い答えと同時に、敵機が視界に飛び込んできた

《Warning 21% of fuel residual quantities》
《Warning Missile zero》

クリスはそれらの警告文を消すと、目の前の敵を機銃でたたき落とした
残り三機、すでに戦闘を始めてからどのくらいたったのかは覚えていない
片方のエンジンがさっきの戦闘で止まりかけて、翼にもいくつか穴があいていた

「くそっ‥‥‥後少しなのに‥」

だんだんと、視界がだんだんとぼやけていくのがわかった

《Warning! Missile alert!!》

アラートが鳴り響いて、クリスは傷ついた機体を無理矢理旋回させる
向かってきた一機はすれ違いざまに撃墜したが、後は二手に分かれてクリスのバックに回り込もうとしていた
旋回してそれを避けようとしたが、不意に視界が真っ暗になった

ブラックアウト―――急旋回による重力で頭部の血液が下半身に下がる為に起こる目の現象である

真っ暗な視界の中、アラートとエンジン音だけが聞こえていた
ふっ、とそれすら聞こえなくなり、クリスの意識は深い闇に落ちていった

―――――おはよう

―――明日は早くから訓練よ、もう部屋に戻りなさい

誰かの声

――――ダメです!システムが‥‥情報が直接脳内に

―――――立て直せ!

―――墜落します!

誰かの叫ぶ声、そして爆音

――――容態はどう?

―――芳しくありません

話し声

――――彼が、レナ・ヒロセの二代目か

―――この計画には、彼が、クリスが必要なんです

――それは我々も同じだ

話し声、同じ場所で

――キミは、私と同じだよ

語りかける声、どこかで聞いた声

『‥‥‥ザッ‥応‥ろ‥‥SA‥‥RF0‥6、‥‥応答しろ!』

呼びかける声



――キミは、私と同じだよ



雑音、続いて視界全体がノイズに覆われる



『SARF06、応答しろ!』

聞き慣れないその声で、クリスの意識は一気に現実に引き戻された
目の前に、雪が積もった山脈が迫っていた

「うぉぁっ!!」

驚きと叫び声が混ざった声を挙げながら、クリスは機体を勢い良く上昇させた
雪の粉と薄い白煙をまき散らしながら、どうにか山肌から離れる
ふとレーダーに視線を移すと、敵を示す点は遠くに2つ、味方を示す青い点が近くに3つあった

『SARF06、大丈夫か?』

その声と同時に、さっとクリスの横に戦闘機が現れた
双発のエンジンを抱えた大型の戦闘機、二つの垂直尾翼にはL.M.F.のロゴが入れられていた

「何とか大丈夫です、支援を感謝します」
『どういたしまして、でも、その言葉は向こうで戦っているキミの友達に言うべきだろ』

男がそう言うと同時に、ホロ・ディスプレイに見慣れた顔、雪花が映し出された、続いてフィーの顔も

『そーそー、助けてあげたのに何にも言わないの?』
『お喋りしない!』

雪花を注意するフィーの姿を見て、男はかつてのSARFを思い出した
よく思い出すまもなく、今日だけで飽きるほど聞いたアラートがコフィンに響いた
雪花とフィーが左右に、クリスと男は上昇して敵と向かい合った
瞬く間に敵は四人の餌食となり、その数を減らしていった

『SARF06、後ろに敵だ!』
「わかってます!」

そう叫びながら、クリスは片発のエンジンが悲鳴を上げる中、必死になって敵の攻撃を交わしていた

『そのまま旋回を続けろ!』

LMFパイロットが叫んだ、そういえばまだ彼の名前を聞いていなかった―――もっともそんな余裕はどこにもなかったが
すぐ後ろで爆発音が響いて、新たに敵が地に吸い込まれていった

「ナイスキル」

短いお礼の言葉すら言い終わらないうちに、さらなるアラートが響いた
今度はクリスだけではなく、全員にミサイルが飛んでくる

「しつこいっ!」

雪花は怒りながら、必死になってシュワルベを旋回させていた
だが。ミサイルは正確に後を追尾していた
一気に減速してかわそうとしたが、それが裏目となって、至近距離でミサイルは爆発した
爆風にあおられて、機体が激しくスピンを始める

「やばっ‥‥‥」

続きを言うまもなく、二発目のミサイルが飛び込んできた
回避はできない、今脱出すれば、機体の回転に巻き込まれて一瞬で機体と心中することになる
思わず目を強く閉じた、直後、すぐそばを何かが通り抜ける音がした
目を開けると、黒い陰が僅かに視界のスミを抜けていった
次の瞬間には、爆発音とフィーの叫び声がコフィンに響いた
スピンする中、視点を後ろに固定すると黒い機体が炎を吹いて墜ちていくのが見えた

――――えっ‥‥‥あれって

まるでスローモーションの用に、自分の周りの景色が動いていった

『雪花!危ない!』

フィーの声を聞いて、雪花は慌てて機体の体勢を立て直し始めた
地面がだいぶ近くなって、ようやく水平に戻る
手早く酸素マスクとゴーグルを付けると、イスの下に手を伸ばした

「ベイルアウト!」

短い宣言の後、イスの下にある虎縞のレバーを握りしめる
直後、コフィンカバーの上部が吹き飛んで、雪花の上半身に冷たい風が押し寄せてきた
続いてサイドカバーも吹き飛び、その数瞬後にシートが勢いよく機体から射出される
数秒後、ベルトのバックルが外れて、雪花は一瞬だけ宙に舞った
直後、パラシュートがバックパックから飛び出して、雪花は宙づりとなった
マスクをはずして、大きく息を吸い込む
それと同時に、大きな爆発音があたりに響いた
下を見ると、さっきすれ違った機体、黒いSARF機が山肌に叩き付けられているのが、はっきりと見えた

「―――――――――!!」

雪花の叫び声は、再び起こった爆発にかき消されて、本人の耳にすら届くことはなかった

濱霧 緑炎さん
01.20.AM 更新