底なし宝箱

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Mission 16

2048年 ニューコム・ペトロル実験航空基地

地下 隔離施設内

「状況はよくありません」

そう言って、その白衣の男は手にしていたクリップボード型の携帯端末から顔を上げた
そこは、暗い部屋だった
様々な機械が所狭しと設置され、それらが置かれている壁には大きな窓ガラスがはめ込まれていて、そこから漏れる光が、その部屋での唯一の光源となっていた
窓の向こう、対照的に明るい部屋には一人の男の子がイスに腰掛けていた
茶髪に蒼い目、7.8歳ぐらいで、その視線は不安げにこちら側――暗い部屋を見つめていた

「どのようによくないの?」

もう一人、金髪の白衣を着た女性、フォッケウルフ博士がそう問い返した

「反射テスト、脳波検査、体力検査――――どれも基準値を下回っています、このままではパイロットとしても――――――」

博士は軽く手を挙げて、その言葉を遮った

「わかっているわ―――――このことをクリスに?」
「言った結果があれです、強いショック状態に陥りました」
「そう・・・・・・・・・」

博士はそう言って、視線を天井に移した

「これは精神科医の意見ですが、このまま彼にプレッシャーを与え続ければ精神的に再起不能になる恐れもあります」

その言葉に、博士はなんの反応も見せなかった、が
「もうわかっていることを何度も言うな」とでも言わんばかりに、男に視線を投げかけていた

「なんとしても・・・・・クリスを飛ばせないとね」


―――ロスカナス市内 空軍病院 病室 12月21日 10時14分―――

『―――――――ですからこの様な子供達を戦わせるなんて、その考え方その物が間違っているのですよ』

スフィアの端末から流れるニュース番組の中で、中年男性がそう熱弁していた。
その下には、エドワーズ大学教授の文字がある

『それでは教授、もしもこの子ども達が再び戦うようなことになったら、あなたはどうしますか?』

同じく中年だが、冷静な声色のレポーターが言った

『そんなことさせないに決まっています、いいですか、これは人権の侵害であり、子供達の未来を握りつぶす行為なのですよ。前世紀末から今世紀初頭に掛けて 多発した少年少女による異常殺人事件をあなたは覚えているでしょう?、このままでは、この子達もこの事件の犯人のような異常者になってしま』

そこまで聞いて、クリスはニュースを消した。スフィアが元の明るい画面へと戻る。
そして、そのままベッドに倒れ込んだ
既に、この病院に収容されてから三日目
その三日間の内に、今のニュースの内容をイヤと言うほど聞いていた

「人殺し、か・・・・・・・・・」

ぽつり、と呟いて、クリスは視線を自分の右足へと移した
包帯もなにも巻かれていないが、医師の話だと神経を痛めているらしい
通常、コフィンはENSIシステムと呼ばれるパイロットの神経細胞と戦闘機のコンピュータとを繋ぐインターフェイスシステムを介して操縦している
つまり、神経の怪我は下手をすればパイロットとして生きていけなくなる、そう言うことであった
唐突に、部屋にネットフォンの着信音が響いた
上半身をベッドから起こしてそれを止めると、ディスプレイにエリックの顔が映し出された

『元気・・・・そうじゃないな』
「やっぱ・・・そう見えます?」
『正直、な・・・・・少しやつれたみたいだな――――――』

エリックは、一度言葉を切った

『――――――当分、飛べないんだってな」

クリスは、それに生返事で答えた

『正直、状況はあんま良くないんだ。・・・・・・・ニュース見たろ』
「見ましたよ・・・・・あんなに言われてるなんて、正直ショックですよ」
『ああ・・・・よくあんなことばっか考えてるよな・・・』

再び、エリックは言葉を切った

『で・・・おまえに話すことがあるんだけど・・・その・・何だ』

言葉を詰まらせたエリックに対してか、脇から「早くしろよ」と声がかかった

『黙ってろって・・・・でだ、その話すことってのが・・・・・・・その・・うぉっ』

その声と同時にエリックが画面外に退かされて、代わりに別の男が画面に入った
黒髪の、ダークグリーンのパイロットスーツを着た男だった、胸には鳶の翼をモチーフにしたLMFのバッジがある

『初めまして、フォッケウルフ准尉。オレは北真悠、LMFでパイロットをやっている者だ』

そう言ってユウは話し始めた、後ろでエリックが何か言っているのが聞こえる

『キミも知っての通り、今世論はキミがパイロットとして復帰するのをよく思っていない、それはわかっているよな?』
「はい」
『それを踏まえて、准尉に渡す物があるんだ・・・・エリック、さっきの』

やっぱオレが話すからいいっての、とエリックの声が聞こえたが。ユウはそれを軽く受け流して、手渡された書類を読み上げ始めた

『その優秀な才能と功績を讃え、ここにクリス・フォッケウルフ准尉を少尉に昇級させ、蒼星勲章4つ、戦傷者章を新たに授与する。また、少尉は傷の治療後、L.M.F.へ出向、リハビリを兼ねた新機種訓練を命じる―――――――』

そこまで一気に喋って、ユウは顔を上げた

「それって・・・その・・つまり」

『SARFからは一時的に除隊ってことになるな』

一時的をやや強調して、ユウが言った

『今パイロットとして復帰すれば、マスコミから叩かれて結局飛ぶことは出来なくなる、だからほとぼりが冷めるまで訓練をしておけってことらしい』

一度言葉を切った

『もちろん、機種転換訓練が終わればまた戻ってこられるんだ』

脇から顔をつっこんで、エリックが言った

「・・・・・・・・・・・・・・」
『もしも、この命令を受諾しない場合は――――――准尉は実戦部隊から退職と言うことになるな』
「本当に、それしかないのか・・・・・・・」

もう、飛べなくなるのはイヤだ――――――――

その思いが、頭を過ぎった

「やります・・・やらせてください!」

あまりに大声を出したためか、スフィアの向こうの二人が驚くのが見えた

『わかった・・・・クリス・フォッケウルフ准尉、L.M.F.への出向を命じる!』
「拝命します!」

クリスはさっと敬礼して、そう言った


壁一面が窓の部屋、その部屋の中央に置かれたデスクに男が腰掛けていた

「そうか・・・・いや、君の言い訳など聞きたくはない」

ディスプレイを前にした男は、淡々と喋っていた

「・・・・・・・・そうだ、それと、襲撃に参加した機体だが、基地で爆弾テロが起こり、機体は全壊、パイロットは全員死亡するからそのように頼む、無論真実は伏せておいてくれ」

男はそれだけ言うと、ネットフォンを終了させた

「作戦は失敗、か」

珍しく、机ではなく男の右側の壁に寄りかかっていたディジョンが言った

「それとも、聞こえよく戦術的、または戦略的敗退と言うべきか?」
「皮肉るな」
「しかし・・・・アーノルドを消せなかったのは誤算だったな、これも、あの二人が優秀だったから、か?」

そう言うディジョンの口調は、どこか楽しんでいるようだった

「何が言いたい?」
「別に何も」
「・・・・・・・・・・」

無言が続いた


ロスカナス郊外の空港の滑走路脇に、三機の黒い戦闘機が止められていた
尾翼にはUPEOのロゴが、主翼にはSARFのロゴがそれぞれ描かれていて、主翼の端は黄土色に染め上げられている
その回りではL.M.F.のつなぎ姿の整備員達が手早く自分たちの作業をこなして、離陸の準備をしていた
その様子を、少し離れた草むらから見つめる影が二つあった
紺色の髪をした女性と、茶髪の松葉杖をついた少年、レナとクリスだった
滑走路上の三機に視線を注ぐクリスの表情は、どこか楽しげであった

「楽しいそうね」

クリスの方を向いて、レナが言った

「そうですか?」

クリスの返事は素っ気ないものだったが、やはりその声は楽しげであった
レナはそれに頷いた

「飛行機が好きなのね」
「と言うか、飛ぶことが好きなんですよ」

甲高いエンジン音が大きくなり、二人の視線の先で三機がゆっくりと滑走路へと進み始めた

「これが、戦いじゃなかったらな――――――――――人殺しか―――」

ぽつり、とクリスが呟く
同時に、3機が頭上を轟音と共に飛び去った
そのまま上空で何回か旋回した後、三機は空の彼方へと飛び去っていった

「何か言った?!」

レナが髪を押さえながらそう言った、まだ爆音が聞こえるために少し大声で

「別になにも!ただ空がきれいだなって!」

レナはそれを聞いて少しほほえむと、基地施設の方に向かって歩き出した

「さぁて、これからビシバシ働いてもらうわよ」

振り向いて、レナはそう言った
そう言って、再び歩き出す
クリスは一度空を見上げた後、それに続いて歩き出した

濱霧 緑炎さん
01.20.AM 更新