底なし宝箱

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Mission 17

何もない
考えることすら出来ない
何か、成し遂げねばならないことがあったはずだが――――なんだっただろう?
思い出せないことに、疑問すら感じない

自分が、バラバラになったのはわかった
それから長い時が経ったのも
色々なモノを見た
色々なモノを聞いた
色々なモノを感じた

唐突に、自分が集まっていくのを感じた
意識が戻って、ついで宙に浮かぶような感覚が体を包み込んだ
次に、目の前に明るい世界が現れた
そして、長い間忘れていたモノを思い出した
彼は、自分のすべき事を思い出した

そして、彼は動き出した

-ロスカナス郊外上空 1月22日 午前6時30分-

夜が去り、朝が訪れようとする時。
どこまでも続く深い森とそこを流れる川が、さながら地平線のかなたまで続く薄い茶色の縞柄の深い緑色の絨毯のように、朝の白い光に照らされていた。
空では、一面に薄く絵の具を引き延ばしたような雲が照らし出されている。
その中を、二機の戦闘機が細い飛行機雲を引きながら飛んでいた。
F-14LU“ブラックキャット”、UPEOとロスカナスで共同開発された最新鋭の戦闘機、眼下の森と同じ深い緑色に染められた機体の、後ろを飛ぶ機体の 垂直尾翼には、黒い猫が三日月をバックに佇んでいる姿が描かれ、前を飛ぶ機体のコックピットの下には小さく大気の妖精の名“eriel”と刻まれている。
どちらの機体も垂直尾翼に白いストライプが引かれ、そこにL.M.F.とsection8のロゴがあった。

「どうだ?新型機の感想は」

“黒猫”の機体に乗っていた男、北真悠はそう言って、前を飛ぶ機体、クリスの新しい愛機に視線を移した。

『最高ですよ、さすが新型』

その言葉とともに、クリスの姿がホロ・ディスプレイに映し出された、その表情は明るい。
ベージュ色をしたUPEOのパイロットスーツ姿ではなく、深い緑色のL.M.F.のパイロットスーツ姿。
襟には一本の黄色い線、少尉の階級章と白い十字架に蛇が絡んだ戦傷者章、そして小さな蒼い星のバッジ――20機を撃墜したパイロットに贈られるそれが四つあった。

『それに、ホント思うように動いてくれるし――こんな機体初めてですよ』
『そう言ってもらえると嬉しい』

そう言って、レナも通信に参加してきた

『クリスが今乗っている機体には学習型のコンピューターが積まれてるの、だから、飛び続ければもっといい機体に仕上がっていくから・・・』
「・・・もっと働けと?」

レナがこくりと頷く。

『わかりましたよ』
「それじゃ次、速度試験いくぞ」

ユウはそう言ってコフィンを加速させた、クリスも追い抜かれないように加速させる。
それと共に、警告音と共にレーダーに未確認機を示す白い光点が映し出された。
辺りを見回しても、それらしい機影はない。
上を見ると、遥か上空、雲よりもずっと高い所を飛ぶ機体があった。
蒼い滝の清流公社のマークとS.S.S.のマークが入った大きな翼を有する機体、殲撃47式“蒼來”と呼ばれる大型の戦闘偵察機だった。
その翼が、朝日を受けて輝く。

『清流公社か・・・多分このテストの偵察だろうな』
「迎撃しなくていいんですか?」
『今は三企業とも停戦中だからな、下手なことするわけに行かないだろ』

そう言っている間に、その機体は飛び去っていった。後には何も残らず、ただ青い空が広がっていた。

「清流公社……ゼネラル……ニューコム……これから、どうなるんだろうな」

ぽつり、と呟く。
返事など、返ってくるはずがなかった。

「準備は完了した、後は君が宣言するだけで状況は始まる」

ファーバンティ沿岸地区にある清流公社本社ビル、その壁一面が窓の部屋で、男が言った。

「ああ、だが未だ完璧ではない」

机の上に腰掛けたディジョンがそう言った。その傍らには数枚の写真とチェスの盤[ボード]がある。

「我々に賛同する者は大勢いる、たった一人抜けたところで問題はない」
「わかっていないな」

そう言ってディジョンは、傍らに置かれているチェスの駒を手にした。

「前はたった一人に私とその仲間は敗北した、彼はそれを防ぐために必要だ」

言い終えると共に、騎士[ナイト]の駒が写真の上に置かれた。

「最後の駒だ、これを置けば完璧になる」

そこには、深い緑色のF-14LU、クリスの愛機が写されていた。

「だが時間がない、ここで状況を始めなければ、戦いは膠着から終結へと動くことも有り得る、そうなれば―――」
「わかっている」

ディジョンは言葉を遮ると、視線を窓の外へと向けた。
冬の空の下、ファーバンティの町並みが広がっていた。

濱霧 緑炎さん
01.20.AM 更新