底なし宝箱

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Mission 18

その放送は、大通りの街頭テレビ、車載端末、電車の広告ディスプレイ、家庭の端末、個人の携帯等を通じて唐突に流された。
最初は激しい砂嵐とノイズが流れ、次の瞬間にはある男が映し出された。
アビサル・ディジョン―――かつて、この地において革命を起こし、そして死んだはずの男だった。

『諸君らは覚えているだろうか?14年前のあの革命を―――』

ディジョンは、人々の視線が自分に向けられるのを待ったかのように少し間をおいてから、そう喋り始めた。

『確かに、我々はあの戦いに敗れた、だが、我々は壊滅などしていない、ただ待っていたのだ』

街頭で、車内で、家庭で、個人の携帯の中で語っていた。

『それは、我々がこの世界に、それを作り出した人々に期待していたからだ。この世界を、我々の力無しに変化させることが人々に出来ると信じていたのだ、だから、我々は待っていた』

一度言葉を切ると、喧噪が消えた街を静寂が覆い尽くした。

『だが、14年経っても変革は訪れなかった、それはなぜか?かつての国家のごとき巨大な力を有した三大企業が、人々のそうした動きを握りつぶしたからだ。 ―――――もう、我々に待つことは出来ない、来るべき次世代を恐れ、旧世代にしがみつく老人に対して、我々は行動せねばならない』

人々は、皆一様にその映像を見つめている。

『来るべき次世代を迎えるためにも、我々は、この革命を、実行する』

静かだが、しかし良く通る声でディジョンが告げると共に演説は終わり、砂嵐が再び画面を覆い尽くした。


そして、時代は再び動き出す。

その放送を、クリスは自分の部屋で見ていた。砂嵐と雑音が収まって、画面に困惑した顔のキャスターが写し出されて喋り始めても、ただ見つめていた。
その内容を見ているわけではなく、ただ、呆然と画面を見詰めている。
ただ、呆然と見詰めているだけ。
コール音が部屋に鳴り響いても、クリスはその場に立ち尽くしている。
少ししてから、初めて気づいたかのように慌ててネットフォンを取った。
相手はユウだった、基地から直接掛けているのか、パイロットスーツ姿だった。

『緊急事態だ、さっきの放送は見ただろ?』

クリスは首を縦に振った。

『あの放送と前後して、三企業とUPEOの一部の部隊が集結を始めたのを確認した、これに対してL.M.F.は非常警報を発令した』

一度言葉を切る。

『全隊員に非常収集が掛かった、少尉もすぐ基地に来て欲しい、それじゃ、また後でな』

ユウはそう言って、慌ただしくネットフォンから消えた。
クリスは端末の電源を落とすと、ベッドの上に投げ出してあったジャケットを着込んで部屋を後にした。

今の我が家である市営マンションを出て、市道沿いを駅に向かって早めに歩き出す。
駅前に着いて、人だかりの側を通り過ぎようとして、クリスは思わず足を止めた。
その視線の先には、L.M.F.のロゴが入ったレオパルドⅡと呼ばれる戦車と、その廻りに整列している兵士の姿が合った。移動の最中ではない、戦車はすべての照明を落とし、車体を覆っているはずのカバーを取り払い、兵士は実銃と実弾の完全武装で、そこに佇んでいた。
ある者は不安の目で、ある者は軽蔑の目で、ある者は好奇の目で、それを見つめている。
戦車と兵隊は、それらの視線を受けて、まるで置物のように佇んでいる。

『―――これは、市議会からの緊急放送です。ご覧になっている皆様は、廻りの人にこの放送をご覧になるようにに呼びかけてください』

駅前に掲げられた大きな街頭テレビの中で、中年のキャスターが原稿を読み上げていた。その傍らにはこの大陸の公用語で『市議会緊急放送』の文字。

『グロッジフォード市議会議長は先ほど緊急会見を行い、ロスカナス市内の治安維持と予測される最悪の事態に対して、L.M.F.の出動を決定しました。議長は『警察力だけではこのような事態の対応は非常に難しく、そのために今回の決断に至った』と公式見解しています』

キャスターは一度言葉を切って、原稿を捲った。

『これを受けて現在配備が進んでいるのは、第一機甲大隊、同第一防空中隊―――』

その上空を戦闘機が四機、編隊を組んで飛び去って、轟音でキャスターの声が聞こえなくなる。


戦争は、確かに形となってそこに現れていた。

強力なスポットライトが夜の闇と、その下で待機している戦闘機や要員達を照らし出し、長い影を駐機場に垂らしていた。
その明かりの中、クリスはコフィンの中でHUDを見ていた、カバーは開け放たれたままになっているので、眩しいぐらいの光が直接コフィンを照らしている。
HUDには、今までの演習のデータが映されていた、その隅には小さくerielの文字がある。
クリスの機体に載せられている学習型のコンピューター、通称アリエル。
飛行中に記録したデータを元に、パイロットの行動、攻撃パターンを分析し、機体の動きを、そのパイロットにとって最適化するシステム。

「ちょっといい?」

そう言って、レナが顔を覗かせた。

「何です」

HUDを消して、クリスはレナの方を向いた。

「少しだけ、上がる前に言っておきたいことがあってね」

パトロールの戦闘機が、轟音と共に飛び去っていく。

「この機体で実戦に挑むのは初めてでしょ、だから、絶対に機体と自分を過信しすぎないで―――これは経験者としての忠告」

一度言葉を切った。

「それと、これは好奇心だけど――――何で、あなたは戦ってるの」

沈黙、その間に再び上空を轟音を伴って戦闘機が飛び去る。

「そんなの、ただ飛ぶために決まってるじゃないですか」

その沈黙の後、クリスは平然とそう答えた。
直後、警報が大音響で鳴り響き、無線から出撃命令が聞こえた。
瞬く間に周囲がエンジンの甲高い音で満たされる。

「それじゃ、いってきます」

クリスのその声で、レナは慌てて機体から離れた。
甲高いエンジン音が響いて、クリスの機体が滑走路に向かって進み出す。
そして、轟音を残して離陸していった。

『未確認機は三、識別信号には反応無し、現在戦闘速度で西進中』

オペレーターの冷静な声がそう告げ、それと共にHUDに情報が表示される。
画面中央に光点が二つ、右端に三つの白い光点が在り、それらはゆっくりと、しかし確実に接近していった。
アラートが鳴り響き、白い光点が二機と一気に別れ、そして加速しながら接近してきた。

『オレは二機の方をやる、少尉は残りを頼む』
「了解しました」

悠はさっと機体を旋回させて、そして加速して二つの光点の方に向かっていった。
瞬く間に翼端灯とエンジンの光が消えて、その場が急に静かになった。
レーダーを見ると、残った一機が急速に接近してくるのが分かった。

警報が鳴り響くと同時に、目の前を戦闘機が通り抜けていった。
衝撃波で機体が揺らされる中、視点を下方に移すと、黒い戦闘機が上昇しながら旋回して、こちらに機首を向けようとしているのが見えた。
反射的に加速しながら、その機体に機首を向ける。
UPEOの物とはデザインが異なるHUDに、敵の姿が映し出された。
殲撃55式“翡翠”清流公社が最近になって開発した双発単座の制空戦闘機、漆黒に染め上げられたその機体に、所属を示すマークは一切無い。

『久しぶりだな、クリス』

無線からジーンの声が聞こえると同時に再びすれ違い、衝撃波で機体が揺らされる。

『どうやら、無事にパイロットとして復帰できたようだな』
「何が言いたい」

静かに、しかし強く言いながら、クリスは高度を上げる。
ジーンはそれに答えずに、緩やかな旋回を始める。

「これなら・・・いける」

小さく呟いて、クリスはジーンの機体に照準を合わせた、その次の瞬間には急機動でそれが外されて、逆に自分の方にミサイルが放たれる。
ミサイルは真っ直ぐと飛んできて―――すぐ側をすり抜けて、何事もなかったように飛び去っていった。

『戦うつもりはない、ただ話し合いたいだけだ』

その声と共に真下からジーンの機体が現れて、そのまま真横に着けて併走を始めた。

『単刀直入に言おう、私は、いや、我々は君を必要としている』

言い終わらぬ内に振り切ろうとしたが、ジーンは平然と追尾してくる。

『クリス・フォッケウルフ、我等の旗の下に集い、共に戦おうではないか』
「誰が………そんなこと!」

ジーンはそれを聞いて、一瞬だけ微笑した。

『覚えていないか、無理も無い』

一度言葉を切る。

『キミが幼少の頃に起きた墜落事故、それによって、君は脳死状態となった―――――覚えているか』

クリスはそれに答えずに振り切ろうとしたが、ジーンは易々と付いてくる。

『そして、当時計画を推進していた者達は、計画継続のために被験者のコピーを本物とした』

それを聞いたクリスが、一瞬だけ震える。

「そんな事…………誰が信じるか」

言葉とは裏腹に、クリスの声は震えていた。

『信じるかどうかは関係ない、これは事実だ―――――そして、私も、我々の指導者たるディジョンもまた同じだ』

ジーンが言葉を切ると、クリスのコックピットにアラートが鳴り響いた。レーダーに、急速接近するユウの機体が写し出される、その周辺に機影はない。

『我々はいつでも君を待っている、良い答えを待っているよ』

そう言い残して、ジーンは翼を翻して去っていった。
それに少し遅れて、今度はユウの機が真横に着いた。

「何なんだよ・・いったい・・」

小さく呟いて、そして操縦をオートに切り替える。
溜まっていた疲れが一斉に出たかのように疲れていた。

濱霧 緑炎さん
01.20.AM 更新