底なし宝箱

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One (9)

 ―――セクトファーリア42

 『それで、そっちの手筈は済んでいるんだろうな?』
実行犯が身の安全を確保するために尋ねた、それに影の指導者は答える
 『勿論だ。万が一の時でも我々で偽装して・・・』
と、ここでリュックのモバイルが鳴り響いた
機材を貸してくれた友人(ちなみに名前はフェミリア)に目で合図すると鑑賞会から抜け出し応対する
 『もしもし?』
と聞きなれてはいないが嫌に記憶に残っている彼女の声
 「ユリカか、どうした?」
 『それが、かくかくしかじかで・・・・・』

一台の更に凸凹にされた黒いセダンが停車し中から一人の女性が姿を現す
乱れているにも関わらず目立たない白い髪と疲れた顔の彼女は目標を見つけると同時に安堵の表情を浮かべた
そして乗り込む
 「お待たせ・・・・」
中で待っていた彼は相変わらずタキシー(銀の棒)を銜えて此方を確認する、そして一言
 「酷い顔だな」
 「そう・・・」
バックミラーで確認する、確かに過去最低の顔に違いなかった
だが働く女性はこんなものである、あって欲しいと願いながらモバイルに帰還ルートを叩きこむ
無人のセダンは勝手に走り出し、勝手にUターンし、勝手に帰っていく
 「それにしても、人生最悪の二日間だわ」
 「そうだな・・・だが安心しろ」
彼はバックミラーを動かしながら呟いた、安心しろに意味が多少ずれている様に感じたが間違いでは無いだろう
 「まだ、終わっていないようだ」
後ろには一台の黒い車両、住宅地にも関わらずエンジンを吹かしたままで中の人間が降りる様子は無い
 「お前・・・バッジを捨てろ」
 「なんで?」
と問いかけて気づいた、彼が捨てろと言うんだから何か訳が有る
パターンとしては大きな組織がアノ物体を仕掛けようとするならば全員が常時・普通に持ち歩く代物
大体パターン化しているが合理的な方法には変わり無い、ポケットからバッジを取り出し割ってみる
小さな機械、小型マイクらしき物も
同時に後ろの車両が後輪から白煙を巻き上げながら発進する
 「シートベルトしとけ、舌噛むなよ!」
エンジン始動、即座にアクセルを踏み込むリュック
小型なスポーツカーは脅威の加速性能を発揮した、瞬く間に追手を置き去りに
進路を塞いでやると飛び出した同型の二台を回避し弾丸は反対車線へと飛び込む
暫く逆走し交差点で元の射線へと戻れば更に加速し後続を突き放す、だが相手とて程度のスピードは出る
追撃を始めた計3台の車両、別の射線からも併走する様に現れる2台
だがスポーツカーと高級車の違いは断然性能にある、追撃は出来ても仕留める事は出来無い
ならばと黒服の一人はモバイルを取り出し自分の上司へと繋ぐ、応援を要請するために

 『本部より全車両、本部より全車両。DBFハイウェイをテロリスト二名が逃走中、至急追撃せよ
  なお今回の追跡にはUPEOの部隊も参加する。黒のザウアーには手を出すな
  繰り返す、全車両はDBFハイウェイを逃走中のテロリスト二名を拘束せよ。
  車両はシルバーのGMスピード。直ちに拘束せよ』

 『この時間は一部内容を変更して放送し放送しております。
  先程、UPEO本部にて記者会見があり先のテロ事件に関する最重要参考人の顔写真などが公表されました
  UPEOの広報担当官によれば最重要参考人は男女二人組でニューコムに所属するリュック・ハーヴェイ少尉
  UPEO情報部所属のユリカ・フェリス少尉の二名で・・・』

 「何考えてるのかしら?」
 「UPEOが良く使う手だ、偽の情報を流し追い込んでいく。前の時もパイロット達を探し出すのに使ってたしな・・・」
と二人揃ってユリカ命名のタキシーを銜えながらカーチェイスは進行して行く
ただ警官が混ざった分、下手に攻撃できずに逃げの一手でしかない
 「けど、威嚇ぐらいなら別に良いよね」
 「どうせ悪人にされたんだ。それぐらい気にするな」
と身を乗り出すユリカ少尉、彼女が愛用するUPEO製のUGG-67サブマシンガンをUPEO部隊にのみ掃射
バンパーが弾け、サイドミラーが吹き飛び、右ヘッドライトが割れ、左ワイパーが吹き飛ぶ
だがフロントガラスなどは防弾製、サブマシンガンの弾頭では相手になら無い
 「・・・・・・!」
 「何?」
運転席でリュックが叫んだ、だが高速走行中の車から頭を出していた彼女には風の音しか聞こえない
今度はリュックの右腕が彼女の黒いズボンを掴み無理やり車内へと引きずり込む
セクハラ紛いの行為に思われても仕方がないが
 「何を・・・」
ここで一発言ってやろう、そう思った刹那
サイドミラーが姿を消し視界にはシルバーの板が流れ、そして板は途切れ視界が元に戻る
 「する・・・の・・・」
確認してみれば視界の一部に赤い大型トラックの一台、あのまま顔を出していれば一発で昇天間違い無し
 「頼むから、俺に心配させるな・・・」
 「うん・・・・」
そして思った、コイツと一緒の時は無茶を止めようと
そんな事を考えているのを知ってか知らずか、車は更に速度を上げ後続の切り放しに移る
USEAの動脈と知られるエリアに進入したが車両の数は増えない、これを期に彼は更にアクセルを踏み込んで行く
そして、この道の先には一番の安全エリアが存在する
察するように警察の数も増えヘリが接近、他の車両も離されぬ様にフルスロットルで追撃中
だが追いつく事は出来ない、安全地帯まで2キロ強
徐々に見えてくる安全地帯、その前方で待ち構える警察のバリケード
だが敵の真ん中を強行突破したり、彼らの前で車を停止させるような喜劇を演じるつもりは無い
流れるようにハンドルを回し左の反対車線へと飛び込む、慌てた警官達と後続
多く無いとは言え通っていない訳では無い、少しでもミスするものならば互いに頭をぶつけるか乗り上げる
ちなみに二人の車は160キロ、対する反対車線の制限速度は120キロ
運転手からすれば障害物は280キロで飛んでくる事になる
 「ちょ!ちょっと!」
 「任せろ、ちょっとは俺を信用しろよ」
 「信用って、会って2・3日なのに」
 「その分、中身は濃かっただろうが」
車の合間を鋭く抜け、バリケードを通過した所で元の射線へ
今度は車ではなく弾丸が彼らを追ってくる、さすがに車で対抗するのは無理が有る
サイドミラーは割れバックミラーが崩落、金属板を叩く音が鈍く響く
 「頭下げとけ、防弾じゃ無いんだから」
そしてシルバーの弾丸は安全地帯の入り口へと疾走する、慌てる憲兵など気にする事は無い
ただ、飛び込むのみ
最初の場車止めを弾き防衛ラインを高速で突破する、バーが食い込みフロントガラスが粉々に
車両を減速させるコーナーを力強い足回りの賜物で突破した、最後に車両を停止させるための特殊ネット
だが高速で突っ込んできた彼らの前では無意味に等しい結果で終了
悪あがきのタイヤブレイクと呼ばれるパンク誘発装置でタイヤが駄目になると車は主人の制御を離れ自由の身へ
完全にグリップを失ったタイヤが空回りし車体は右回りの高速スピン、ウォータータンクへの激突後左回りへ
アスファルト地帯を抜け保養用の芝生へと滑りこむと芝生と黒土を巻き上げながら滑走
そして白煙を上げながら停止するGMスポーツ、ボンネットからは白煙が溢れ窓ガラスは全て無い
 「・・・大丈夫か?」
エリカの頭を守る様に上へ乗ったリュックが状況を確かめながら尋ねた
 「・・・うん、大丈夫」
じっと彼の下で安全を確認するエリカ、暫くしてリュックが立ち退き彼女も体を起こす
 「此処は?」
ガタガタでボコボコのドアを開き、回りを確認する、慌てて飛び出てくる兵士達と警備用の装甲車
騒ぎを聞きつけ現れる職員達、そして上空待機する戦闘ヘリ
ダウンウォッシュに髪を弄られながら彼は掲揚灯で揺れる白い旗を見上げながら呟いた
 「ニューコム所属、ダースバード空軍基地へようこそ」
一機のR-104が彼らの上空を飛び越え滑走路へと高度を下げた

CAN電池さん
01.20.AM 更新