底なし本棚

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The 10th day ― [Extra.1] 大晦日には家族と炬燵

「瑠一さんっ、今日は大晦日ですよっ!」
「‥‥そういえばそうだな。もう今年も終わりかぁ‥‥。」

朝食の最中にそんな事を言われ、俺は思わずしみじみと返した。沙樹嬢を拾ったのが初夏のこと。それから夏秋を越え、もう季節は冬である。思えば、半年近く同居していた事になる。そんな長いようで短かった日々に思いを馳せていると、綺麗になったお茶碗をたんっ、と置いて沙樹嬢が言った。
「そうじゃなくて、大掃除です!」
「‥‥‥はい?」

力強い沙樹嬢の言葉に、俺は思いっきりアホな声を出してしまった。

「大掃除っつっても、普段から月に1回はかなり大がかりにやってるし、先週末にごそっとやったろ?今日も普通にやれば大丈夫じゃない?」
「でも‥‥年末に年賀状と大掃除は必須です!」

何を燃えてるんだか、背後に炎が見える沙樹嬢。右拳を握り、身を乗り出して力説している。ちなみにもう一方の年賀状の方は既に投函済み。一部 E-Cardなる電子年賀状で済ませてしまったところ沙樹嬢から邪道だ、という声が出ていたのだが、それはさておき。彼女は昨日の晩俺が言った事をころっと忘れているらしい。

「でも今日、俺の実家に帰るって言わなかった?」
「‥‥‥‥あっ!」


たっぷり5秒おいて、しまった!という表情になる。本気で忘れてたのだろう、あぅぅぅ~、という妙な音と共に頭を抱えて座り込んでしまった。

「それも昨日まで2人共バイトあるからって今日に延ばしてもらってるから、日暮れまでに大阪まで行くんだぞ。新幹線の切符を見るに、あとここ片づけてちょっと身支度したら出かけないと間に合わん。」

沙樹嬢、沈没。何がそこまでショックだったのか、ちゃぶ台にばったりと突っ伏している。ちなみに俺の父親の実家が大阪の郊外にあって、毎年事情がない限り向こうで新年を迎えていた。今年も別段事情はないらしく、俺も年末ぐらい落ち着いて帰ってこいという指令に従って、例年通りの年越しをする事になった。例年通りでないのは、俺が家を出たせいと前述の通りバイトが30日まであるせいで帰省が大晦日になった事と、その沙樹嬢が俺の家族と共に新年を迎える事である。実は祖父母は元より、うちの両親や妹と沙樹嬢が会うのも初めてである。内心何事もなくいくかどうかとちょっとだけ心配ではあるのだが‥‥まぁ、電話口で連れて行くって行った時も多少の躊躇はあったもののOKした事だし、大丈夫だろうとは思うが‥‥。
と、そこまで考えた時、沙樹嬢が突然起きあがった。

「って、それじゃ急がないといけないじゃないですか!」
「そうだよ。さ、もう食い終わったんだから片づけるよ。」

そう言って、かちゃかちゃと食器を流しに運び、手慣れた手つきで洗っていく。‥‥俺、最近料理よりも片づけの方が上手くなっちゃったんだよな‥‥。まぁ、沙樹嬢という料理人に教わって料理の方も上達はしてるけど。閑話休題。
俺が流しの中身と流し自体を洗っている間に、沙樹嬢はちゃぶ台の上をさっと拭いた後、部屋の中を手早く片づけていく。そういう分業はほとんど習慣になっているので、お互いにいちいち指示をしない。ほとんど夫婦である。
キッチンスペースを大体綺麗にしてゴミをまとめると、沙樹嬢もゴミ箱に部屋の目立つゴミを放り込んで、袋を引っ張り出しているところだった。

「沙樹ちゃん、これもよろしく。俺着替えまとめとく。」
「はい。‥‥って、荷物まだ作ってないんですか!?」

どうやらさっき完璧に失念していたにも関わらず、沙樹嬢は大体の荷物はできているらしい。‥‥なんで?

「昨日聞いた時に準備しておいたんですよ。直前に慌てるの嫌でしたから。」
「なるほど。‥‥でも今朝荷物を見て大掃除という行動に疑問を覚えなかったのは‥‥‥。」

返事がないので上着を片手に沙樹嬢の方を窺うと、頬をちょっと赤くして、ぷっとふくれた顔でゴミをまとめているのが見えた。


東京駅は久しぶりな上、初めてのルートで来たせいでいまいち方向感覚が掴めない。どうやら長野から来た沙樹嬢も東京駅を使ったわけではないらしく、しきりに辺りを見回している。辺りにある大きな地図で現在地と目的地を見比べる事3回、ようやく新幹線ホームに辿り着いた。

「この辺は何となく見覚えがあるんだけどな。」
「の割に結構慌ててませんでした?まだあと20分ぐらい余裕ありますけど。」

うっかり逃したら最後の新幹線、ホームが見つからないとあれば多少慌てるぐらいは大目に見て欲しい。改札を通りホームに上がると、沙樹嬢の言葉通り、あと20分弱で発車するらしい。来るまででもあと15分ぐらいはあるだろう。

「弁当買うぞ、弁当。」
「はーい。」

ホームにいくつかあるキオスクで駅弁を物色してみる。うーん、こうして見ると‥‥。

「幕の内とかって美味しいですか?」
「さぁ、俺はあんまり食べた事ないからわからん。」
「いろいろ入ってるけど‥‥どうなのかな?」

なんとなく美味しそうなのと心惹かれないのとの割合が‥‥後者の方が高い。さて、どれにするか‥‥。

「これ、食堂にもありそうな感じですね。」
「あー、ありそうだな。‥‥って、店員の前でんな事言ったら失礼だろ!」
「あっ‥‥‥。」

ちなみに件の商品は五目炒飯である。割と好きではあるのだが、700円もする弁当と一皿250円の生協食堂のとを比べるのは少々失礼だ。大抵大学の食堂=マズイというイメージがあるし‥‥。
結局、俺はその五目炒飯に温かい烏龍茶、沙樹嬢はサンドイッチに温かい缶紅茶という組み合わせになった。

「なんか、オーソドックスですよね。」
「別段ここに来て買うべき品じゃないよな。」

コンビニでも、むしろここで買うよりずっと買える品々である。庶民派なのか?


新幹線の中では取り立てて言うほどの事はなかった。ちょっと隣に座っていた3,4歳ぐらいの女の子が泣き喚いてうるさかったり(母親が慌ててデッキに連れて行った)、俺がトイレに立っている間に沙樹嬢がナンパされたり(俺が戻ってきたら退散した)、持参したパズル本を解いてたら酔ったり(本を閉じて寝た)したぐらいである。

「ここが大阪ですかー。」
「いや、見た目大して変わんないし。」

大阪だろうが東京だろうが、新幹線の駅の見た目は大して変わるものではない。それはさておき、ここからさらに地下鉄に乗り換えて揺られる事20分、何度も訪れた駅に辿り着いた。ここからは歩いても行けるしバスに乗っても構わないが‥‥‥。

「どうする?」
「うーん‥‥歩いてもいいですけど、どれぐらいかかりますか?」
「確か15分かそこらだったと思う。」
「確かって‥‥‥。」

結局寒い、迷いそう、という2点の理由でバスに乗ることになった。

「どんな人なんですか?」
「んー、おじいちゃんとおばあちゃんとおじさんとおばさんと女の子。」
「‥‥うちの家族だってそうですよっ!」
「バスの中バスの中。」
「あう‥‥‥。」

そんなこんなで、チャイムを鳴らした頃には既に日が半ば暮れかけていた。冬の日は短いねぇ‥‥。


当然俺の家族は先に来ている。俺は子供の頃から年に1度は訪れている家、慣れたものだが、沙樹嬢は初めてである。とりあえず中に招いて部屋に荷物を置いて。居間に行くと何だか待ちかまえていたように、炬燵に全員集合している。
簡単に挨拶をしてとりあえず座るように勧めた。

「んで、もう話では何度か出てるけど‥‥この娘が。」
「あ、えと‥‥瑠一さんのお宅にお世話になっております、美月沙樹と申します。どうぞよろしくお願いします。」
「という事。とってもいい娘だから。」

ちょっとおざなりだが付け足してやる。で、家族+祖父母が自己紹介。この場にいる全員が俺の家族なわけで、お互いに自己紹介し合っているのも何とも変な感じだが、まぁ仕方ない。
その後、定番のみかんを食べながらちょっとずつ会話をしていく。当然俺の方がメインになるわけだが、たまに沙樹嬢に振ってみたりする。多少緊張気味ではあれ、まぁ印象のいい感じなのでよし。家族も彼女をそれなりに気に入ったようで、特に祖父母が新たに孫ができたような感じで沙樹嬢に話しかけているのを見ると微笑ましい。妹も自分より更に年下の娘がいる事は珍しいせいか、いろいろ話をしている。‥‥っておい。

「こらてめぇ、人のプライバシーを‥‥。」
「いーじゃん。お兄ちゃんに聞いたって答えてくれないし。」
「いやまぁそうだけど。沙樹ちゃんでも答えねぇだろうが。」
「答えませんよ‥‥。」
頼むから、親の見てる前で「もうキスしたの?」とか聞くな。


あまり大きくもない炬燵の回りに大人7人が入るとなると、どうしてもテレビのある方にも人が座る事になる。通例上座に祖父が座り、その向かいに孫どもが座るので、どうしても俺と妹は画面が見えなくなる。今年は妹がずれて俺の隣に沙樹嬢が座っているので、妹はテレビが見えるようになったわけだが、俺は今年も誰ぞの歌声を背に夕食を取ることになった。

「わー、美味しそう。」
「どんどん食べなさいね。あんたも身体小さいんだから。」

祖母の声には悪意が全くないので、沙樹嬢も別段ショックを受ける事なく、でもちょっと遠慮気味に食べている。沙樹嬢が来てから我が家の食卓は相当グレードアップしている。それでもさすがに食にかけられる費用の問題などからある一定のレベルに止まっている。もちろん十分以上に美味しいのだが、さすがに年末年始で奮発しているこの食事は久しぶりのご馳走だ。俺は当然、全く遠慮なくぱかぱか食べている。

「瑠一もよう食うようになったなぁ。」
「ほう?むぐむぐ、ごくん。別に身体鍛えてるわけじゃないけど、最近時々言われる。大学でも。」
「ほうか、今は自炊か?」
「んー、沙樹ちゃんと俺が3:1ぐらいで作ってる。夜は外食は滅多にしないよ。‥‥なぁ?」
「ふえ?あ、はい。」

突然振ってみたら、妹の話を聞いていた沙樹嬢は思わず変な声で返事をした。思わず祖父と2人で笑ってしまうと、ますます混乱してくる。こういう時の沙樹嬢は見ていると本当に面白い。

「え?え?」
「いや、いーのいーの。」

ひとしきり笑って、また祖父と会話に戻る。

「じゃあ普段も相当食っとるんと違うか?」
「んー、俺は普通のつもりだけど‥‥。」
「結構食べますよ。私、最初はびっくりしました。」
「ほう、そんなか。」
「この娘少食だからね。」
「そうですか?」

と言っても、今日はいつもよりペースは遅い。やっぱり少し遠慮しているらしい。

「で、瑠一も一応作れるわけやな。」
「うん。」
「どうや、沙樹ちゃん、こいつの料理ウマイか?」
「えーと‥‥最近すごくうまくなりましたよ。最初は時々フライパンの中身焦がしたりしてましたけど。」
「この娘すごく上手いからさ、ずっと教わってんの。」
「じゃ結構作れるようになったの?」
「おう。明日の昼は作ってもいいぞ。」

妹が横から口を挟んだので、思わずちょっと風呂敷を広げてみたり。と、両親が何故か乗ってきた。

「よし、じゃあ明日のお昼は瑠一の手料理にしてもらおう。」
「おぉ、そら楽しみやな。」
「ホントやね。」
「‥‥‥マジで?」
「マジで。」
「あの、手伝いますよ。」

なんだか意外な展開に思わず呆然としている俺。みんなが盛り上がる中、助力を申し出てくれた沙樹嬢を何故か妹が止めている。どうやら俺一人でやらせる気らしい。まあ‥‥いいけどさ。


結局、俺は大して見ていなかったが紅白は白組が勝ち、奈良のどこかのお寺が映っている。民放では誰かがカウントダウンライブをやっている様子が映っている事だろう。‥‥なんでドミノ?まぁいいけど。そんなこんなで、今年も終わろうとしている。今年も、去年と同じくいろんな事があった。でも去年と違って、今年は一人暮らしをして、家族が一人増えた。これまでにあった様々な出来事と同じく、俺を大きく成長させてくれたような気もするし、やっぱりあんまり成長しないまま今の俺があるような気もする。
何とはなしにテレビを見ながら、そんな事を考えていると、画面右下にぴょんと数字が現れた。59から1秒に1つずつ、正確に減っていく。もう今年も1分を切ったのだ。

「今年も終わりなんですねぇ‥‥。」
「そだな。」

沙樹嬢の一言には、ただ年が終わる、という以上の思いがこもっていた。同じような事を考えていたんだろう。つい一昨日、16歳になったばかりの彼女にとっても、今年は大きな変化の年だったに違いない。

「9,8,7,6,5‥‥。」

テレビから、子供も大人もみんなで数えているのが聞こえる。そして、こっちではというと。


「「「「あけましておめでとうございます。」」」」


やっぱり日本人であった。

07.01.27-AM 更新
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